廣瀬陽子教授(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
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 また今回、徴兵招集されていた人も戦闘要員として駆り出されました。軍事的な練度が低い人たちが突然戦地に放り込まれても、どうしていいのかわからない。恐怖感からわけもわからず銃を撃ちまくった人もいる。戦うのが嫌で自分の足を自分で撃ち抜き、戦線離脱する兵士もいると聞きます。士気が上がらない中、少しでも「飴」を与えようと、ウクライナ国内では略奪や虐殺行為をやってもいいというお達しを出したようです。食糧が不足していることもあり、ロシア兵によるスーパー襲撃の話も聞こえてきます。空腹で精神的にもギリギリで、当然戦闘にも身が入らないので劣勢になり、さらに長引く……。そうした悪循環が起きているのです。

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――プーチン大統領という世界に大きな影響力を持つ為政者が、個人的な感情で戦争を引き起こしてしまう。廣瀬先生はコラムの中で今後は「一人の人間が歴史を動かすという現実」を分析に取り入れる必要性にも言及しています。

 今回の侵攻は、誰の目から見ても合理性に欠けています。しかし、プーチン大統領にとっては「自身の正義を貫く」という意味で合理性があるのかもしれません。国際政治学者のフランシス・フクヤマは近著『IDENTITY(アイデンティティ)』で、「承認欲求で歴史は動く」と説いていますが、今回の侵攻は、まさにプーチン大統領が募らせていた承認欲求と、それが満たされないどころか自身の尊厳が崩され続けているといった被害妄想が積み重なり、直接的に戦闘に駆り立てた――。そう言っても過言ではないかもしれないのです。

(取材・文/中津海麻子、取材・構成/内山美加子)

廣瀬陽子(ひろせ・ようこ)
慶應義塾大学総合政策学部教授。博士(政策・メディア)。1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了・同博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員、東京外国語大学大学院地域文化研究科准教授、静岡県立大学国際関係学部准教授などを経て16年より現職。著書に『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』(講談社現代新書)、『ロシアと中国 反米の戦略』 (ちくま新書) など

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