■夢の中でとうちゃんの味を感じるハウ
『ハウ』を読んでいて面白いと感じたのは、民夫の悲しみとハウの想いが章立てで進んでいくところだ。
民夫はハウの前で自分を「とうちゃん」と呼ぶようになり、「とうちゃんと風呂に入るか?」などと、話しかけるようになっていた。結果、ハウは自然と「自分の名前は“ハウ”で、御主人の呼び名は“とうちゃん”」であることを、はっきりと認識するようになる。
姿を消したハウは何と、とうちゃんから798kmも離れた北の大地にいた。大好きな民夫に会うためにハウは目を閉じる。風の匂いを嗅ぐ。すると決まってどこからか、とうちゃんの「ハウ、こっちだ」という声が聞こえる。そうだ、とうちゃんのもとへ帰らなければ……。
ハウは夢を見る。とうちゃんと川原でボール遊びをしたこと、とうちゃんの胸に飛び込んだこと、とうちゃんの顔や手を舐めたこと。「夢の中なのにとうちゃんの味がした」という言葉に切なくなる。
■民夫が見た風景、ハウが見た景色
読み進めていくたびに、ハウは人間よりも人の痛みがわかるのではないかと思うようになった。とうちゃんに再び会うための長い道のりの途中で、ハウは多くの人間に出逢い、人間の生きるしんどさに共感し、その辛さを癒し、周りの皆を笑顔にしていく。
そしてとても自然に、触れ合った人間たちとさよならをしていく。まるで、さよならが決まっていた、みたいに。
ハウがいなくなって月日が経つと、民夫の心にも少しずつ変化が訪れる。「自分が直面している現実に向き合わない限り、僕は苦しみから抜け出すことはできない」とさえ思うようになる。
最後まで読むと心にあふれるのは、悲しみを超えた幸せな気持ちだった。涙が少し、瞳にたまったけれども。
映画『ハウ』/監督:犬童一心、脚本:斉藤ひろし、犬童一心 配給:東映/8月19日ROADSHOW(C)2022「ハウ」製作委員会
(朝日新聞出版 長谷川拓美)