半年以上前に放送されたテレビ番組での、ある発言が話題になっています。格差を解決する案として起業家の平原依文氏が提案した「学歴中心の履歴書から経験中心の履歴書へ」というアイデアです。
彼女は幼いころから複数の国に留学し、早稲田大学国際教養学部を卒業後、外資系企業に入社したのちに起業しています。彼女の語る「経験」は、親の財力が成せたことであり、「格差を拡大させてしまうのではないか」と今になってTwitterで炎上しました。番組内でも、イェール大学助教授の成田悠輔氏が、経験重視の入学試験を実施しているアメリカでは、高校生のときに大学入試で有利になる経験をするために2週間で100万円ほどのパッケージツアーに参加したり、NPOや会社をつくるなどの事態が起こっていると指摘しました。
デジタル庁統括官の楠正憲氏は、学歴はその世代で勉強を頑張れば誰しもチャンスがあって公平だが、どんな経験を積めるかは時代によって不均衡であると述べています。AO入試や新卒採用で評価される「経験」の中には、札束で手に入るものもあるが、虚心坦懐に世界を眺めれば実家が太くなくてものし上がる機会はある、とも発信しました。Twitter内でも、実家がお金持ちの子たちしか有益な経験はできないという論調です。「有益な経験はお金で買うもの」という風潮に対して、一線を画す意見を述べられる存在は、YouTuberだと考えます。なぜなら、YouTubeでウケる経験は、お金で買えない類のものだからです。楠正憲氏の述べるところの「実家が太くなくてものし上がる機会」の一つは、YouTubeだと思います。
YouTuberのバックボーンや経歴は、普通の企業の採用の履歴書では「映えない経験」であることが少なくありません。不登校やいじめの経験、親との確執や貧困など、何かしらの問題を抱えている人が成功する場所でもあります。恵まれた人や、現状に満足している人は、YouTubeを必死に頑張れなこともあります。
私も、結婚してすぐに主人の事業がうまくいかなくなり、友達もいない福岡で生後半年の子供を抱えながら、何かしらお金を稼がなければならなかったためにYouTubeを本格的に頑張りました。主人の事業がうまくいっていたら、YouTubeを始めることはありませんでした。「旦那の事業がコケる」「収入が10分の1になる」という経験は、お金で買ったものではありませんが、人生に大きく影響を与えました。