放送作家・鈴木おさむさんが、今を生きる同世代の方々におくる連載『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は、第69代横綱・白鵬の断髪式について。
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1月28日土曜日、行ってまいりました。宮城野親方であり、横綱・白鵬断髪式。11時前に両国国技館に入ると満員で異常な盛り上がり。
式が始まると、大記録を打ち立てた横綱・白鵬らしいとんでもなく豪華な断髪式。市川團十郎さんの舞が始まると、国技館全体に神々しさが一気に満ちていきます。
そのあと、白鵬と最後の相撲を取ったのは、息子の眞羽人君でした。土俵の上で一緒に四股を踏み、白鵬は大量の塩を撒く。
最後の取り組みが始まりました。僕はこれを見ていて、最後どうするのだろう?と思いました。勝ちにこだわってきた白鵬らしく、息子さんを転がす可能性だってあり得る。だけど、最後は息子さんに押し出されました。横綱・白鵬は親方になると同時に父親に戻るのだなと思ったんです。
そしていよいよ始まる断髪。断髪が始まると、森喜朗さん、YOSHIKIさん、原辰徳さん、山下泰裕さん、トヨタ自動車の豊田章男さん、まさに各界の“横綱”たちが土俵に上がり鋏(はさみ)を入れていく。ありがたいことに、私も43番目に鋏を入れさせていただきました。
僕は溜席(たまりせき)だったので、かなり近くでその姿を見ることが出来たのですが、一人目の摂津倉庫代表取締役の浅野弘資さんが鋏を入れた時でした。宮城野親方の目元が膨らんでいくのが見えました。おそらくその瞬間にこれまでの思い出が一気に蘇っていったのでしょう。
頭の髷が取れた白鵬は宮城野親方になるわけです。
断髪が終わると、奥様の紗代子さんとお子さんたちからの花束贈呈です。紗代子さんのこらえきれない涙。
今まで紗代子さんの近くで何度か白鵬関の取り組みを一緒に見させていただいたことがあります。ある時、白鵬に対してかなりのアゲインストな会場の空気感でした。紗代子さんは表情を変えずに見守ります。取り組みが行われ、その時は白鵬が負けました。会場は沸き立ちました。すると紗代子さんは、ゆっくりと静かに流れる涙を拭い、立ち上がって帰っていきました。白鵬と一緒にこの人も戦っているんだなと思いました。そんな姿を見ていたからこそ、紗代子さんの、こらえきれない涙が、とても心に刺さりました。