政府は本人の希望で70歳まで働ける改正法案を今国会で提出し、いよいよ70歳定年時代が現実味を帯びてきた。本当に働けるのか不安や心配が募る一方で、キャリアの可能性が広がるチャンスともいえる。AERA2020年2月17日号では、自分らしく長く働き続けるヒントを探る。
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働き方を変えるべきタイミングはいつか。AERAは1月下旬、インターネットを通じてアンケートを実施。自身の病や家族の死がきっかけだという人が少なくなかった。そうした大きな出来事に直面する前に準備できないものか。リクルートキャリアの藤井薫HR統括編集長(54)はこうアドバイスする。
「1週間の中で、没頭したり無我夢中になったり、ひたむきになる時間が少なくなっていたら考えどきです。自分のキャリアのことばかりを考えているときは無我ではなく有我です」
会社の中でだんだん打席がなくなっている、と感じている人も「いい機会」だという。
「控えが続くチームにいるよりは、先発出場したほうが必要な筋肉を鍛えられます。一流の選手でもベンチでの控えが長く続くと、試合で打てなくなります」
長く打席に立ち続けるために、一度仕事を離れ、学び直すという選択肢もある。
池田美樹さん(53)が22年間在籍した出版社マガジンハウスを50歳で去ったのは、「少なくとも70歳まで楽しく仕事をするにはどうすればいいか」と考えた末のことだった。
憧れの同社に中途入社したのは29歳のとき。骨を埋(うず)めるつもりだったが48歳で、「コンテンツ制作以外」の仕事を主にする部署へ異動。編集畑で培ってきた経験を生かせなくなった。
葛藤の中で浮かんだのが、「私は雑誌を作る仕事しかしていない。編集とは違う分野で何かをしっかり学ぶことで、キャリアを新しく築き上げたい」という欲求だ。
選んだのが、慶應大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科で「40代以上女性のアイデンティティーの再構築をどうすべきか」をテーマに研究する道だった。2年かけて修士課程を終えた昨年、再就職に向けて複数の企業に履歴書を送ったが、すべて書類で落ちた。