たまたまこの世代に生まれたというだけで不利益が続く。就職が厳しく、不安定な人生を余儀なくされた。そんな世代に再挑戦の機会をつくるため、社会が動きだした。AERA 2019年12月23日号で掲載された記事を紹介する。
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11月25日、兵庫県の宝塚市役所で2020年1月に採用される40代の男女3人が記者会見に臨んだ。就職氷河期世代を対象に絞った採用で、世間の注目を集めた合格者たちだ。
同市では今年7月、30代半ばから40代半ばの氷河期世代を対象にした正規職員の採用試験の実施を発表すると、3人の募集枠に1816人が殺到した。1次試験を受験したのは1635人。実際は1人増やして4人を採用したが、すさまじい倍率だ。
合格者の1人が、宝塚市の女性(45)。地元の公立高校を出て、九州にある大学の農学部に進学。幼いころから将来は動物園で働きたいと思っていた。業界の将来を見据え、就職の際に武器になると思って学芸員の資格も取得した。就職活動を始めたのは大学3年生の初めごろ。意中の動物園に手紙を送り、採用があるかどうか尋ねた。
「高卒の募集しかありません」
期待していた返事はなかったが、諦めもつかない。他の動物園も当たったが、同じ答え。乳業メーカーを中心に幅広い企業を検討し始めた。
気になる企業をノートに書き出し、手当たり次第にアプローチ。その数、100社以上に上った。ノートに書き留めてあった企業名には、次々と横線が引かれていった。
内定が出たのは外食産業の1社だけ。この企業は、合同説明会でブースをのぞいた。乳製品の研究をしていることを伝えると、社長の男性は言った。
「うちでも研究をする部署を立ち上げたい。来てもらえないか」
その言葉を信じて就職を決めたが、その部署ができることはなかった。しばらく悩んだ後、退職した。在籍期間は2カ月だった。
その後はフィットネスクラブやレジャー施設でのアルバイトで生計を立てた。結婚して専業主婦の期間もあったが、のちに離婚。その直後に、宝塚市の採用に応募しようと決めた。生活の不安だけではなく、宝塚は住みやすく、子どもの送迎などで地域の人たちに助けられてきたことから、「地域に貢献したい」と考えた。