「健康こそが貧困問題解決の一丁目一番地。だからこそ、トイレが世界で最も安い薬なんです」

 もともとは、ビジネスマン。建設業をはじめ、16もの会社を起業した。40歳で社会起業家に転向。今後必要なのはお金ではなく、人生の残り時間をかけるにふさわしい「生きる目的」だと思うようになったからだ。その目的こそが、「トイレだ」と。

「私自身、前からトイレの問題が大きな社会課題だと気づいていたわけじゃない。でも、この事業を始めた40歳の時は、すでに40年トイレ経験を積んでいたわけで(笑)。世の全ての人が、トイレ経験者なんですよ」

 課題の一つに、女性のレイプの問題もある。世界中の女性の3人に1人が安全なトイレ環境がないのが現状だ。特にインドでは、レイプの30%が屋外で排泄する時に起きているという。

「トイレに行くという日々の行動が、怖い経験になってしまっている」とジャックさんは指摘。学校にもトイレがなく、プライバシーが保たれないため、「生理中の女の子が学校に行かなくなることもある」のだという。

「日本は世界で最もトイレに関する美意識を持った国」とジャックさん。「トイレ文化は日本の誇りであり、日本食、マンガ、『KAWAII』などと同様、どんどん輸出していくべきソフトパワー」と称賛する。

「トイレを磨くとその人の精神性が高まるなんて、他の国にはない価値観ですよ。来年、五輪の開催国として各国からの訪問者を迎えるのは絶好の機会。『トイレの神様』のようなポップソングを、是非、英語やスペイン語、中国語などに訳して、世界中の人々に日本のトイレ文化を広めてほしい」

(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2019年11月25日号