AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
* * *
まさにあの自画像が息を吹き込まれ動きだしたようだ! 数々の名演・怪演で知られるウィレム・デフォー(64)が、画家でもあるジュリアン・シュナーベル監督と、誰もが知る、だが誰も見たことのないゴッホ像を創り上げた。
「演じるときは常にその人の“中に入る”感覚なんだ。そのために今回はまず彼の手紙を読んだ。なにより絵を描くことを学んだことが大きかった。劇中でも僕が実際に絵を描いている。すべて編集なしで一から描いているんだよ」
手ほどきをしたのは監督だ。
「ジュリアンは新しい物の見方を教えてくれた。例えばグラスを描こうとするとまずその形を再現しようとするけれど、『そうではなく光を見ろ』と教わった。するとそこにない紫の色が見えてきた。ちょっと神秘的な体験だった。普段とは違う物の見方ができるようになって、これがゴッホの物の見方だったのかもしれない、と思えてきた」
映像の工夫も「ゴッホの見ていたであろう世界」を我々に体験させてくれる。分厚いレンズ越しのような不思議な世界。ひまわりの黄色、あふれる南仏の陽光、頬をなでる風の音までが印象的だ。
「素晴らしかったのは、実際にゴッホが住んでいた場所で撮影できたことだ。彼が見たものに近い風景を見ながら絵を描くと、彼がつけた足跡を自分が踏んでいる感じがした。自分が流動的な存在になり、すると“誰か”になることができる。それがパフォーマンスの一番の核になるんだ」
創作に熱中するゴッホが、村で次第に孤立していく様子も生々しく感じられる。
「彼の手紙には、『自分は社会的にぎこちない人間だ』という葛藤がつづられている。絵を描いているときにはエクスタシーに近い感覚があるけれど、それが日々の生活とうまく和解していない。彼は絵に向かっているとき以外に、自分の場を見つけられなかったんだ。でもそれは誰にでも多少はあることじゃないかな。僕はその感覚がよくわかる」