台風19号とその後の長雨で、各地の河川を襲ったバックウォーター現象。大河川だけでなく、支流の氾濫も多かった。「逆流」はなぜ起きたのか。AERA 2019年11月4日号に掲載された記事を紹介する。
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大型台風19号が去り10日ほど経った10月22日。国土交通省北陸地方整備局の担当者は、長野県を流れる千曲川の水位が長雨で刻々と上昇するのを見ていた。
「バックウォーター現象で支流の浅川が逆流すれば、浅川が氾濫する。それだけはさせないようにしました」(担当者)
午後2時45分頃には浅川への逆流が始まった。午後3時15分、同局は合流点にある水門を閉鎖。幸い夜に入り千曲川の水位が下がったため、午後9時10分に水門を開けたという。
バックウォーターとは、2河川の合流地点で、本流の増水により、支流がせき止められたり水が逆流したりする現象のことだ。
昨年7月の西日本豪雨では、岡山県倉敷市真備町を流れる高梁川支流の小田川でバックウォーター現象が発生し51人が亡くなった。短くて流れが急な日本の河川では、増水時にはどの川の合流地点でも起こりうる。
台風19号では各地で河川の氾濫が相次いだ。公益財団法人「市民防災研究所」理事の坂口隆夫さんは言う。
「バックウォーター現象が、台風19号による被害を拡大させた大きな要因。東日本全体の河川でバックウォーター現象が起き、大河川だけでなく支流の中小河川の堤防も決壊しました」
典型が、東京都と神奈川県を流れる多摩川支流の平瀬川の氾濫だ。バックウォーター現象により平瀬川の水があふれ、浸水したマンションの1階で60代の男性が亡くなった。
渡良瀬川支流の秋山川による氾濫で栃木県佐野市が浸水したのも、阿武隈川支流の新川の氾濫で宮城県丸森町が浸水したのも、バックウォーター現象が原因と見られている。
大河川の氾濫は警戒しても、支流の氾濫が想定外ということもある。長野県飯山市では、河川の氾濫後数時間遅れで避難勧告が出た。想定した千曲川ではなく、支流が氾濫したためだ。