一連の改善策は「少しでも赤字を減らすことでFMHに支援してもらうためでは」との見方が社内外にあったが、飯塚氏の社長会の参加でこうした見方が裏付けられたと言えそうだ。
一方でFMHにとっては、産経の子会社化はほとんどメリットがないようにみえる。FMHは中核のフジテレビの苦戦が続いており、2019年3月期の売上高は1.1%のマイナスだった。関係者は「FMHの株価は、13年に発表し今も検討を続けている『お台場カジノ構想』への期待から、視聴率ランキングで低迷している割には高い。いま産経を子会社化すれば暴落するだろう」と話す。
では、なぜ日枝氏は産経支援の方針を示したのか。実は、日枝氏を動かしたのは安倍晋三首相の「一声」だったという。
FMH関係者によると、日枝氏は昨年7月、産経シンパで知られる安倍首相から直接「産経が潰れてもいいんですか」と支援を持ちかけられたという。そのため今回の動きについては「社長会に飯塚氏を招聘したのは、安倍首相へのポーズでは」という声も聞かれる。
他の大手新聞社では、新聞がテレビ局の株を握る関係が一般的。新聞がテレビの傘下に入ることに、全国紙の元総務省キャップは「新聞報道の自由が脅かされかねない」と危惧する。
テレビ局は総務省から免許を与えられなければ放送ができず、政権が影響力を行使しやすい構造だとされる。自民党がテレビ局に対して「選挙報道は公平に」と文書で要請したことは記憶に新しく、現在の総務大臣は国会でテレビ局に対する「停波」を示唆した高市早苗氏だ。
またフジテレビは韓流が重要コンテンツ。産経の熱心な読者から「韓国大好きフジテレビの傘下に入るのか」と批判を受け、離反を招くおそれもある。(ジャーナリスト・山鹿武廣)
※AERA 2019年10月28日号