日本製品の不買運動の広がりが報道されるなど、日韓関係はここ数十年で最悪と言われている。韓国の市井の人々はどう思っているのか、朝日新聞前ソウル支局長の牧野愛博が取材した。光化門(クァンファムン)近くのスターバックスでお茶をしていた二人組の若い女性に声をかけると、二人とも「不買運動に参加している」という。二人は28歳と30歳で、ともにソウル市内の会社に勤める会社員だった。
【写真】光化門広場で開かれた日本政府の輸出規制強化などに反対する集会
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不買運動に参加した理由をあれこれ聞いてみた。28歳の女性は「過去の問題で日本にもやもやした気持ちがたまっていた。それが今回の輸出規制で爆発したんだと思います」と話す。
二人には今回の騒動を巡る詳しい知識はなかった。1965年の日韓請求権協定で、韓国が個人の請求権も含む金額を日本から受け取ったため、徴用工訴訟判決に従って日本企業がカネを払えば、協定が破壊されてしまう──といった事情があることは知らない。「日本は過去、ウリナラ(我が国)を支配したことがあり、文在寅(ムンジェイン)は言うべきことを言っている」という認識だった。
韓国では戦後、保守と進歩(革新)との間で、長い対立が続いている。保守勢力は安全保障を米国に、経済協力を日本に、それぞれ頼りながら長い間、与党であり続けた。進歩は反発し、保守政権が日本と結んだ日韓請求権協定についても「不法な植民地支配という前提を忘れた誤った合意だった」という認識が強い。
政治対立が激しい近現代史は長く、韓国社会で解釈を巡る対立が続いた。最近でも、朴槿恵(パククネ)前政権が中学・高校の歴史教科書を国定化するよう推進したが、文在寅政権になって頓挫するという事態が起きたばかり。あまりに敏感な問題のため、教育の現場では、若い人たちに近現代史を教える機会は極めて限られているという。
漠然とした歴史に対する知識のなか、「日本の安倍政権が韓国に経済的な懲罰を加えた」という単純な構図が宣伝され、若い人たちの日韓関係に対する関心が一気に高まったという。