マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである』『一億総ツッコミ時代』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。新刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)
マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである』『一億総ツッコミ時代』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。新刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)
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イラスト:大嶋奈都子
イラスト:大嶋奈都子

 お笑い芸人のマキタスポーツさんによる「AERA」の連載「おぢ産おぢ消」。俳優やミュージシャンなどマルチな才能を発揮するマキタスポーツさんが、“おじさん視点”で世の中の物事を語ります。

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「下流グルメ」を提唱してきた。

 代表的なものが「10分どん兵衛」だ。2015~16年にかけて巷で少し話題になったあれである(通常5分のゆで時間を10分でやるというシンプルな作り方)。これで日清さんも潤い、また電通が入ってやったウェブ広告が評価され、カンヌでのCM賞を受賞するということにまで発展した。一時はコンビニの棚からどん兵衛が消え、人からは「知ってる? 10分どん兵衛って!?」と言われた。

 ちなみにこれ、もともとは単なる貧乏メシでそういう食べ方になってしまったものなのである。上京したての頃、金が無く、田舎から送られてきたインスタント食品で食いつなぐために編み出した技なのだ。要はお湯で麺を太らせて嵩(かさ)増ししていたのである。書きながら耳が熱くなる。

 このことから勘違いしてほしくないのは、下流グルメは貧乏であることを目的としないということだ。私はそこそこ金を稼ぐようになった今でも週に3~4度はインスタント麺を食べるような人間であり、また、それをふやかしたりするのはもちろんのこと、味を足したり、2種類をブレンドしたり、かたくり粉を使ったり、「若干の後ろめたさ」を感じつつも、これを当たり前のこととしてやり続けている。未必の故意というか、“結果そうなってしまった”あるいは、“現在そうなってしまっているもの”程度に留(とど)めたいのである。目指して到達するようなものでなく、「生活に染み付いた何か」、これが最大のテーマ。

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