東京証券取引所が、4区分ある一般投資家向け株式市場の再編を検討している。最上位である東証1部の基準の引き上げや、新興企業向け市場であるジャスダックとマザーズの併存解消などが柱だ。議論の行方次第では、一流企業の証しとされてきた「東証1部上場」の金看板を1千超の企業が失う可能性がある。性急な再編は、株価暴落の引き金にもなりかねない。
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東証には現在、大企業が中心の東証1部を頂点として、東証2部、ジャスダック、マザーズの各市場がある。これを大企業限定の「東証プレミアム」、中堅企業向けの「東証スタンダード」、ベンチャー企業の育成を狙った「東証エントリー」の三つに再編する案が検討されている。
東証上場の企業は3月28日現在、3661社。バブル後の1995年には東証1部と2部、ジャスダック(当時の呼称は店頭市場)を合わせて約2300銘柄だったので、6割近く増えた。バブル後の日本経済は「失われた四半世紀」とも言われる低成長だが、上場企業数だけは右肩上がりだ。
日本の上場企業は世界的に見ても多い。マネックス証券の大槻奈那チーフストラテジストに現状を聞いた。
「人口100万人当たりの上場企業数は米国が10~15社程度、ドイツは10社にも届きません。一方、日本は約30社もあり、突出して多いですね」。
特に問題視されているのは、2139銘柄に達する1部上場企業の多さだ。海外の最高位市場を見ると、米国ナスダック市場の「グローバルセレクト」が1400社強、ロンドン市場の「プレミアム」が約500社。最高位市場の上場企業が多すぎると何が不都合なのか。大槻さんは続ける。
「上場企業の多さや増加傾向は悪いことではありません。しかしその背景に、企業に課される新規上場基準や上場廃止基準の緩さがあるようでは、経営者の達成感を機に企業の成長がストップする懸念があります」
投資信託の運用会社や保険会社、年金基金といった機関投資家にとっても1部上場企業の過剰状態は歓迎できないようだ。多くの機関投資家は株式で資産を運用する際、対象国のうち主要な上場銘柄を軒並み買う。日本であれば東証1部全銘柄を購入すれば、本来は日本経済全体に投資する形となるはずだ。
だが東証1部の2139社には、時価総額が21兆円のトヨタ自動車から数十億円台の地銀まで大小さまざまな企業が含まれる。投資家からすれば東証1部全銘柄を買っても、必ずしも日本を代表するとは言いにくい企業にまで投資することになってしまう。(経済ジャーナリスト・大場宏明、編集部・中島晶子)
※AERA 2019年4月8日号より抜粋