「死別は私たちが経験する最も大きなストレスです。大切な人を失ったんですから、悲しくて当たり前なんですよ。死を考えないようにし、悲しみにふたをしていると、回復が遅れることもあります」
こう話すのは埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科教授で『遺族外来─大切な人を失っても』の著者の大西秀樹さんだ。精神腫瘍医としてがん患者ばかりでなく、家族や遺族の心もケアしてきた。
大切な人を失う悲しみは古今東西変わらないが、死を受け止め、その後の生活を立て直すことが難しくなってきている。その理由を、東北福祉大学教授で、遺族の援助を担う人材育成とケアを実施する一般社団法人日本グリーフケア協会会長の宮林幸江さんはこう説明する。
「核家族化が進み、身近な人との死別経験が少なくなったことや、地域コミュニティーの助けを借りて自らの手で行っていた弔いが葬儀社中心になり、葬儀や法事も簡略化される傾向などで遺族が死を受け止めるのが難しくなってきています」
大切な人を亡くした後、体や心に起こる反応は「悲嘆(グリーフ)」と呼ばれる。心や体にどんな変化が起きるのかを知ることは、「誰にだって起こること」「私だけ特別なわけじゃないのか」と気持ちが楽になり、回復の大きな助けにもなる。
宮林さんによると、悲嘆は次のようなプロセスをたどることがわかってきているという。
まず死別直後に起こる「ショック期」。悲哀をあまり感じずに、死去に伴う手続きなどの必要な行動は淡々とこなすことができる時期。緊張感がとても強く、過敏な状態にある。
火葬や納骨などを終えて日常生活に戻った頃には、避けられない現実と直面し、「本格的な悲嘆の時期」が始まる。体調不良を併発するケースもある。
宮林さんの研究で、日本人の悲嘆の反応には四つの特徴があることが明らかになっている。
(1)「思慕」。亡くなった人をいとおしいと思う気持ちで、故人に話し掛けたり、故人の気配を感じたりする人もいる。亡くなった人が存在するかのように絆を感じながら回復していくのは日本人の特徴。(2)「疎外感」。誰にもわかってもらえないと思い込み、人に会いたくない気持ちになる。(3)「うつ的不調」。眠れなくなったり食欲が低下したり、無関心、無気力、不安や恐怖など、うつと似た症状が表れる。期間も「年単位」の長期に。(4)「適応対処の努力」。死別直後から始まり、「亡くなった人の分まで頑張らなければ」などと自分を奮い立たせ、無理に頑張る過剰適応。思うようにいかず、自分を責め、自信を失い、また頑張る……を繰り返す。