一方で大統領は、国境の壁建設、貿易赤字の解消、同盟国や国際機関などへの拠出金の減額、軍事費の拡大など、大統領選挙中からの公約を一つも曲げていない。政敵の民主党が下院を握った末の「ねじれ議会」であっても、公約実現姿勢を貫き通すことで、今もなお4割前後を維持している岩盤支持層は絶対に逃さない。
今回の演説で女性の活躍をたたえたのは、自身の雇用政策の成果を強調する中でのことだった。また、不法移民による犯罪犠牲者の例として女性を出すなどして、壁建設という既存の政策に対する女性の支持を訴えるなど、したたかさも健在だ。
史上2回目となる米朝首脳会談を2月27、28の両日にベトナムで開催することを発表した以外、新しいことは何もなかった外交方針の説明の中で、トランプ大統領は突然、「新たな決意」を表明した。
「米国で社会主義を取り入れようとする新たな呼びかけがあることを懸念している。(中略)われわれは自由とともに生まれた。そして、自由であり続ける」
16年の大統領選の民主党予備選で、惜しくもヒラリー・クリントン氏に敗れながらも、旋風を巻き起こしたバーニー・サンダース上院議員の社会主義的な政策に大きな支持が集まって以降、民主党の若手議員には同様の政策を訴える政治家が増えた。アレクサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員ら中間選挙で当選した民主党の女性議員の中にも多い。米国民の政治思想が左右両極端に分かれつつある分断社会の現状を物語っている。両者が議場にいる中でのトランプ大統領の発言は、まさに次の大統領選に向けた民主党への宣戦布告だった。
「今夜、われわれは決意を新たにする。米国が社会主義国になることは決してないと」
社会分断を拡大させたと言われるトランプ米大統領が、分断社会を象徴する「ねじれ議会」で「団結」を呼びかける一般教書演説は、1年9カ月後に迫った大統領選への事実上の号砲のごとく、皮肉にも政党対立をますますあおりかねない結果を導きそうだ。(AERA編集部・山本大輔)
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