他者に性的に惹かれない性的少数者を指す「アセクシュアル」という言葉が
広がりつつある。社会で生きづらさを感じる当事者も声を上げ始めた。
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「恋愛しないなんて人間じゃないよ」
5年前、なかけんさん(22)はバイト先でそう言われた。なかけんさんは恋愛したことがなかった。そもそも、恋愛感情が分からない。ショックを受け、自宅でパソコンを開きネット検索した。「『恋愛感情』『ない』」
「たどり着いたのが『アセクシュアル』でした。ああ、これだったんだと安心しました」
アセクシュアルの定義は統一されていないが、「恋愛的感情の有無にかかわらず、他者に性的に惹(ひ)かれることがない人の総称として提案したい」と、アセクシュアルを研究する三宅大二郎さん(27)は言う。他者に恋愛的にも性的にも惹かれない人や、恋愛的には惹かれても性的には惹かれない人など、多くのカテゴリーがある。なかけんさんの場合は前者だ。性的少数者の一つとされるが、当事者にもまだ、この言葉の認知度は高くない。
恋愛的にも惹かれないアセクシュアルの人は、思春期に周りとの違いを感じ始めることが多い。「誰が好き?」と聞かれても、恋愛の「好き」が分からず答えにつまる。相手が自分に恋愛感情を持っていることが理解できずに、関係性が壊れてしまうこともある。「まだ運命の人に出会ってないだけ」「恋しないなんて人生損してる」という周囲の言葉に戸惑い、何か欠陥があるのではないかと自問し、恋愛できない自分を責めてしまう。
「アセクシュアルを含めた性の多様性について知ってほしい」と、なかけんさんは動き始めた。「性」を語るユニット「性性堂堂」を作り、ユーチューバーの活動を始め、三宅さんと「アセクシュアル啓発委員会」も立ち上げた。
11月10日には、早稲田大学のGSセンターでトークセッション「あなたの『好き』と、わたしの『好き』、どう違う?」になかけんさん、三宅さんら5人が登壇し、当事者としての思いや悩みなどについて語り合った。会場には325人が集った。