GAOの報告書によれば日米共同調査による「民間施設」候補は沖縄県外にもある。ところが防衛省は、調査どころか「緊急時使用」の意味が日本有事からどこまで広がるのかすらノーコメント。「民間施設」が決まっても非公表もありうるという。

 確かに、米軍が日本で「緊急時に民間施設を使用」するのは相当危うい事態で、運用は極秘だ。しかも中国にらみとあれば首相訪中で関係改善を探る日本政府の口は重くなる。そんな機微な話が普天間返還という注目度の高いテーマで条件に明記されているわけだ。

 95年の沖縄県での米兵による少女暴行事件を機に、普天間返還が決まって二十数年。日本側の交渉経験者は、「飛行場は手放しても機能は守る」という米側の姿勢に「沖縄戦で米兵の血であがなった基地だ」という気概をひしと感じたという。

 日本側はどうか。長年にわたる日米交渉で、沖縄で、日本で、国民が背負う米軍基地負担は全体として減っているのか。

 そうした総論を「厳しさを増す安全保障環境」というかけ声でぼかし、国民生活に関わる「民間施設使用」をめぐる各論も語らないまま、安倍内閣は普天間問題を収束させるべく辺野古沖の代替施設建設へ突き進む。(朝日新聞専門記者・藤田直央)

AERA 2018年11月5日号

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