さっそく発動してみた。対象となったのは、最近では最大級の怒り爆発となった現場。長年仕事でお世話にはなっているが、理不尽が服を着て歩いているような怒りんぼおじさんと言い合いになったときのことだ。
「だからお前なあ……」
はあ? 今どき仕事相手に「お前」呼ばわりをする?
「プチン」と何かが切れる寸前、「プチ」くらいのところで、数えてみる。
「1、2、3……」
しかし相手に、黙ってしまったと思われるのは悔しすぎ。再び「ひと言言ってやる!」と虫がうずき始めたところで、他の方法も総動員。
「トイプー、秋田犬……」
「ヨナンメナ!」
「ウホホウホホ」
もしもし。私ってば、何やってる? 思わず口元がゆるんだところで、思い切り口角を上げて作り笑い。この作り笑いにも、実は怒りを撃退する効果があるらしい。人は「楽しいから笑う」のではなく、「笑うから楽しい気持ちになる」という説があり、作り笑いにも、緊張の糸を緩める効果があるとか。というわけで、おじさんのエンドレスの説教を聞きながら、満面の笑みになったころには、ファイトのタイミングも、やる気も失っていた。電話でよかった!(ライター・福光恵)
※AERA 2018年10月15日号より抜粋