ITの進化が速い中国。最前線の技術には投資も集まる。若い世代はITで起業をめざす。利益と社会貢献の両得をねらう人たちも多い。
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「いま、中国では9割以上の老人が自分の家で最期を迎えています。彼らは老人ホームには行かない。でも子どもたちは外で仕事をしています」
AI技術者で起業家の黄剣峰(ファンジェンフォン)さん(39)は6月、深セン(※「セン」は土へんに川)でプレゼンをしていた。黄さんはお年寄りのお相手ロボットである「康益三宝」(健康に三つの利益、の意)を開発中だ。
4回目を迎えた中国社会的企業・社会的投資フォーラムの一幕で、中国全土から起業家や投資家、NPOや財団投資家ら約千人が集まった。起業家が投資家らとの出会いをめざして次々と登壇し、売り込んだ。
利益だけでなく、社会貢献もめざす社会的企業。貧困や高齢化、環境など社会課題がてんこ盛りの中国では関心が高まっているが、今回の特徴はITをはじめとするテクノロジーを利用した企業が非常に多いことだ。
毎年同フォーラムを取材しているが、中国ではテクノロジーの進化と定着が恐ろしく速い。一昨年はウィチャット(中国版LINE)がなければ取材に支障をきたし、昨年は食事の「割り勘」もスマホが当然になっていて、今年は市場で買い物をするのに現金を出したら驚かれた。
社会的企業もテクノロジーも、社会変革の最先端をいくという意味では共通しており、親和性があるのかもしれない。若い世代が両者を組み合わせ、どんどん起業している。黄さんの取り組みも、単なるロボットやAIではなく、あくまでも「お年寄り向け」である点が特徴だ。なぜお年寄り?
「両親が出稼ぎをしていて、おばあさんに育ててもらったんです。大学の時に亡くなったんですが、何も恩返しができないままにそばにいてあげられず、すごく悔しかった。こんな思いを他の人にさせたくない」
アリババなどの技術者を経て2015年に起業、昨年の9月に初試作品ができた。 ロボットは目など顔の表情もあり、会話もできる。血圧計測や一緒にダンスすることも可能だ。24時間モニターし、万一の時には病院につながり、医師らが駆けつけるという。
経済も拡大中の中国は、商機があると見れば投資家は寄ってくる。15年まで一人っ子政策をとっていたため、日本同様に少子高齢化が深刻だ。黄さんの事業にもフォーラムだけで1千万元(約1億6千万円)の投資が決まった。今年中には商品として発売したいという。