マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである』『一億総ツッコミ時代』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞
マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである』『一億総ツッコミ時代』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞
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あの重鎮コメディアンがヘンな焼酎の飲み方をする理由(※写真はイメージ)
あの重鎮コメディアンがヘンな焼酎の飲み方をする理由(※写真はイメージ)

 お笑い芸人のマキタスポーツさんによる「AERA」の新連載「おぢ産おぢ消」。俳優やミュージシャンなどマルチな才能を発揮するマキタスポーツさんが、“おじさん視点”で世の中の物事を語ります。

*  *  *

 来年にはついに平成も終わるという。思えば、平成は「丁寧」だった。

 あるベテランコメディアンの方と酒席のお供をした時のこと。

「どんなことがあっても毎日飲む」と豪語しているそのベテランは、愛飲している焼酎の銘柄も、大したブランド品ではない分、逆に強い拘(こだわ)りが感じられ、なるほど、噂に違わずなかなかの酒豪だと感心するのだが。更に感心するのがその飲み方だった。ベテランは、店員にその水割りをオーダーする時奇妙な要求をする。

「かき混ぜてくれるな」

 奇癖の類かと思って躊躇(ためら)われたが、どうしても気になったので、恐る恐るも「どうしてですか?」と理由を尋ねてみた。

 すると……、

「味が変化するだろう?」

 と言うのだった。私は感動して、思わず「なんて酒助平なんだ!」と言ってしまった。もちろん心の中でだ。相手はただのベテランではない、いわば重鎮中の重鎮。

“人生の先輩”は、長いキャリア故、何かしらの到達点にあるものだ。同じことを毎日続けるという真面目さがその酒に対する助平さを達成させたと言えまいか。だからこそのあの伝説のコメディアンぶりなのだろうと、変な方角から氏の本業の偉大さがうかがえた。

 平成の丁寧さの話だった。本題に戻ろう。

 人間が本来欲するニーズは、安眠、安心安全、暑い時は涼しく、寒い時は暖かく、水があって、食べ物に困らず、暗闇が無いとかぐらいか。日本社会は昭和の時代にそれは全部達成した。「その先のニーズ」の時代が平成だったのだと思う。だからか、常にお客さま本位に立ち、新たなサーブができないものかと腐心する。もはやニーズの上限に達しているのに、その先のニーズを掘り起こそうとサービス過剰がデフォルトになった。これ以上我々を「甘やかさないで欲しい」と言いたいが、その丁寧さから逃れられない。

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