「日本が取り残されるということは、何を意味しているのか」と安倍首相は自問した。
3月28日の参院予算委員会で、対北朝鮮外交について聞かれた時だ。
「日本にとって最重要である拉致問題が置き去りにされるのではないか。日本にとって脅威である中距離ミサイルが議論の対象にならないのではないか。核実験は停止するが核保有が認められてしまうのではないか」
いずれも安倍政権にとって悪夢だが、事態は急展開している。北朝鮮の核・ミサイル開発を止めるため、米国の先制攻撃すら取りざたされた状況から3月に一転、4月末の南北首脳会談、5月の米朝首脳会談の開催がたて続けに発表。3月28日には、金正恩・朝鮮労働党委員長が初めて訪中し、習近平国家主席と会談する映像が伝えられた。
北朝鮮問題を「国難」と呼び、昨年は衆院解散の理由にまでした安倍氏。「最大限の圧力を国際社会の方針にするため日本がリーダーシップを取ってきた結果、北朝鮮が話し合いを求めてきた」とも自賛する日本の首相が、一方でなぜ「取り残される」懸念を示すのか。
まず最近の日本外交の“誤算続き”が背景にある。
平昌五輪前、政権中枢の一人はこう語っていた。
「ここまで国際社会が経済制裁を強めれば、北朝鮮は米国との対話を求めてくる。その時、金正恩は仲介を韓国の文在寅大統領ではなく安倍首相に頼るだろう。安倍首相にはトランプ大統領とのパイプがあるからだ」
確かに北朝鮮は対話へ動いたが、その先の読みは完全に外れた。金氏が米朝首脳会談を望むというメッセージを託したのは、3月上旬に訪朝した韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長。直後にホワイトハウスを訪ねた鄭氏に、トランプ氏はその場で金氏との会談に応じると語った。
かたや安倍氏は3月中旬までにトランプ氏、文氏とそれぞれ電話で話し、北朝鮮が非核化へ具体的に行動するまで日米韓で圧力をかけ続けることを確認。すると金氏は、対話による解決を唱える習氏を北京に訪ねた。
この展開に戸惑った日本。ある外務省幹部は言う。