

「コンビニ百里の道をゆく」は、40代のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
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長く仕事を続けていると多くの人に出会います。社内や取引先に限らず、パーティーや異業種交流会、勉強会なども重要な出会いの場です。でも、ただ名刺を交換していても、その後につながる人間関係は生まれません。
私が最も大切にしているのは「一期一会」の精神です。初対面で5秒あいさつするだけの相手とも、50時間ともに仕事をする相手とも、同じ姿勢、同じ心持ちで接する。「もう二度とお会いすることはないかもしれない」という前提で、だからこそ敬意を持って接するように心がけています。
この最初の接し方次第で、相手との関係は良くも悪くもなる。相手との関係を良くしようとするのではなく、あくまでも自然体で敬意を抱くことができれば、「生きた人脈」につながるはずです。
こんなふうに考えるようになった原点は、大学時代の就職活動です。
幸い、三つの会社に内定をいただき、大変申し訳ないことですが、三菱商事以外の2社を辞退することになりました。1社は「許さん」という姿勢で、初めてお会いする大学の先輩なども出てきて「迷惑がかかる」と言われました。もう1社は、人事部長が「三菱商事も素晴らしい会社だ。君の健闘を祈っている。世界のどこかでまた仕事をしよう」とエールを送ってくれた。
内定を辞退して会社に迷惑をかけることは事実なので、責められたことをどうこう言うつもりはありません。ただ、私はエールを送ってくれた会社への恩を忘れたことはありません。実際、三菱商事の社長秘書時代にこの会社と仕事をしたときは、私は「あの時のご恩をお返ししたい」という思いでいっぱいでした。
異業種交流会などに参加するだけが人脈づくりではありません。どんなときも一期一会の精神で相手に敬意を払って接する。「これは」と思った人には手紙を書いたり、食事をしたりして、ゆっくり距離を縮めていけばいい。それが「濃く」「長く」続く人間関係を築く秘訣だと思います。
※AERA 2017年10月30日号

