●他者の幸せが自分の力
起業するにあたっては1億元(約17億円)の投資を受け、今はまだ赤字だが、19年には黒字化する見込みだという。
喬氏は「ビジネスの本質はお金もうけではなくて、社会課題の解決だと思う。中国では貧困に悩む家庭が多いが、病気が原因のことも多い。そういう家庭を救いたい」という。
王周(ワンチョウ)氏(39)は、成都から飛行機に3時間乗ってフォーラムにやってきた。高齢化社会に対応する健康検査の機械会社を起業したが、事業拡大のために投資家を探す目的だ。
投資を募りたい人が次々にスピーチするセッションに参加して、投資家とも出会えたという。「このフォーラムは社会起業家にとっては大きなイベントだから。わざわざ来た甲斐があった」と満足げだった。
女性の企業家もいる。
楊さん(30)は、黒竜江省出身だ。故郷の大学を出てから北京で金融やネット企業で働いた後、15年に「億人幇(イーレンパン)」を起業。昨年からサービスを開始した。「ネットを使ってビジネスと公益をつなぐプラットフォームをつくりたい」といい、すでに中国のネット通販最大手アリババグループの個人通販サイト「淘宝網(タオバオ)」と組んでプロジェクトを実施した。
自閉症やエイズ患者の支援に取り組む団体とも連携し、タオバオのサイト上に団体の活動内容を載せる。団体のサイトに飛べば、寄付も可能だ。「タオバオにとってはイメージもよくなるし、ユーザーのタオバオサイトの滞在時間も長くなるメリットがある。団体にとっては、知名度が上がり、寄付ももらえるかもしれない」(楊さん)
今後は検索大手の百度(バイドゥ)とも組む予定だという。ただ、ビジネスモデルをつくることが優先で、まだ収益は得ていない。
なぜこの世界に入ったのか。
「困っている人を助けたい。単なる寄付ではなくて、イノベーションを起こして持続的にできるようにしたかったから。他の人の幸せが自分のエネルギーになる」(同)
●社会に活力を与えたい
だが、企業で順調な道を歩んでいたのに、それを捨てるのは勇気がいったのでは、とたずねると「ものすごく勇気がいりました。実際に起業してもビジネスよりつらいし、壁がいっぱい。お金ももうからないし、嘘をついているのではと疑われることもあるし、本当に疲れる」。
それでもなぜやるのかといえば、「自分の能力を使って社会に活力を与えたい。それが自分の価値だし、自分のやっていることの価値が社会の価値になると思うとうれしい」という。
中国の変化のスピードは速い。社会的企業を取り巻く環境もものすごい勢いで変わりつつある。社会的企業が中国の社会を変える日が来るかもしれない。(朝日新聞編集委員・秋山訓子)
※AERA 2017年8月28日号