アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は国立西洋美術館の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■国立西洋美術館 総務課長 南川貴宣(41)
東京・上野の森にたたずむ国立西洋美術館。その静かな館内を今、追い風が吹き抜けている。今年7月、近代建築の巨匠ル・コルビュジエが設計した建築作品の一つとして、世界文化遺産への登録が決まったのだ。
登録への運動は、西洋美術館に加えて外務省、文化庁、東京都、台東区が連携して進めてきた。調整役として中心にいたのが、今年1月に文化庁から異動してきた南川貴宣だ。
登録決定後、常設展で入館する人は昨年平均のおよそ3倍、日によっては10倍の1日5千人に。来館者や取材への対応、記念事業の企画などに、13人の部下とともに今も追われる毎日。「美術に関心を持っていただくいい機会」と南川は前向きに臨んでいる。
世界遺産決定を生かそうという機運は館の外にも広がり始めた。
「商店街の方々も、旗やポスターを制作してくださるなど、街全体で盛り上げてくださっています。引き続き周囲の方々と協力して、新しい試みに取り組んでいきます」
10月には、上野公園周辺の文化施設が一体になって「TOKYO数寄フェス」を開催。西洋美術館は東京藝術大学と協力し、バイオリニストの諏訪内晶子を招いて演奏会を開いた。
今の南川を動かしているのは「文化芸術振興に携わりたい」という熱い思いだ。しかし、ここまでストレートにたどり着いたわけではない。1997年に南山大学文学部(当時)を卒業し、住宅メーカーに勤務。その後、国立大学職員を経て、転任試験を突破して2003年に文部科学省へ移った。文化庁で主に舞台芸術の支援や著作権関連業務、本省での生涯学習関連業務などのキャリアを積んできた。
その過程で、「芸術は創造力を養うもの。芸術家でなくどんな仕事に就くにしても創造性は必要だ」という考えを抱くに至った。
そのためには、まだまだ少ない中高生の来館を増やしたいと思う。休日には高2、中2の娘をいろんな美術館に連れて行き、作品の感想などを言い合って盛り上がっている。
(文中敬称略)
(ライター・安楽由紀子)
※AERA 2016年12月5日号