東京大学教授西成活裕にしなり・かつひろ/専門である「渋滞学」から派生した「無駄学」を研究し、日本国際ムダどり学会の会長も務める
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東京大学教授
西成活裕

にしなり・かつひろ/専門である「渋滞学」から派生した「無駄学」を研究し、日本国際ムダどり学会の会長も務める
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 仕事や日常生活のなかで生まれる様々な「無駄」。しかしそれは一概に、まったく役に立たないというわけでもないようだ。「無駄の効用」について、西成活裕・東京大学教授は次のように話す。

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「無駄」とは、お金や時間、労力など投入したコストに見合うだけの効果を得られない場合に使われる言葉だが、特に大切な要素が二つある。それが「目的」と「期間」だ。

 実は、無駄かどうかは、その二つの要素をどう設定するかで変わる。例えばある社員は、営業成績を見ればリストラ対象だが、職場の潤滑油となる欠かせない人材である可能性もある。短期的には無駄と考えられる人材でも、長期的に見れば会社に大きな貢献をしてくれることもあり、無駄を評価するときには目的と期間を定め、その範囲で考えることが重要なのだ。

 モノが売れない現代では、企業は原価を下げて利益を出すために無駄を排除していかなければ生き残れない。一方で最近では決裁権者が増えたり、説明や注意書きが過剰になったりするなどの「コンプライアンス過剰」がたくさんの無駄を生み、企業の生産性を落としている側面もある。

 効率化一辺倒で短期的に成果を出そうとするあまり、なかなか結果の出ない研究開発への投資を無駄ととらえて減らし、失敗も許さない風潮は危険だ。試行錯誤が企業の競争力を強くすることもある。

 適度な「ゆとり」や「間」は、一見無駄に見えても無駄ではなく、リラックスすることで勉強や仕事の効率も上がる。さらに、素晴らしいアイデアが浮かぶときは、論理の糸を手繰ってたどり着くことはめったになく、いったん頭に詰め込んだ知識や経験を解放し、リラックスした状態で自由に連想するときに、新しいアイデアが飛び出す。無駄には効用もあることを忘れてはいけないだろう。

(アエラ編集部)

AERA 2016年4月4日号より抜粋