3.11はあらゆる災いが詰まるパンドラの箱を開けた。だが、底には希望があった。それは、あの震災で、生き方や考え方を揺さぶられた若者たちの姿だ。
ツイッターのタイムラインに、「僕」のことが流れてきた。
「あいつがデモをやっている」「過激派になった」「政府がやっていることに反対するのか」
フォローした友人たちが、ネットに散らばる心ない言葉をリツイートしていた。そのことが、千葉泰真(24)の胸に刺さった。
「おかしいと思ったことに、おかしいと声を上げるまでは簡単だった。言っていることに学問的根拠もある。だけど、わかってもらえない。旅行に行ったと書いたら『いいね!』が100個つくのに、政治的なツイートに、友達は反応してくれない」
ある日、アパートから出られなくなった。ベッドに腰掛け、時間が流れるのをただ見ていた。同級生は就職活動を始めていた。みんなと同じであるべきか、もっと勉強して、理不尽でも、社会に向き合うべきじゃないのか。2014年3月のことだった。
その少し前に、特定秘密保護法に反対する学生団体SASPL(サスプル)の立ち上げに加わった。初めて街頭で声を上げた感触に興奮した一方、SNSでつながる友人たちとの意識の断層に戸惑った。
震災の日、母と宮城県から上京して、一人暮らしのための部屋を探す予定だった。大学進学を決めた希望の春は一転し、不安が覆った。収束が見通せない原発事故。経済は、雇用は、就職は──。
「普通のサラリーマンになりたかったんですよ。ビシッとスーツを着て丸の内を歩くみたいな」
両親とも教師。ホームドラマのサラリーマンが非日常に映った。“普通”に憧れたのは、そのせいかもしれない。