


映画「千と千尋の神隠し」の舞台のモデルともされている道後温泉が、写真家の蜷川実花とコラボレーションした。道後温泉本館はもちろん、街も蜷川カラーに染められている。彼女がプロデュースした客室は、海外からの旅行者にも人気だ。
作品は道後温泉本館だけではなく、街のいたるところに点在している。路面電車や駅前のちょうちんゲート、飲食店の内壁、ホテルのロビーにあるランプシェードなど、蜷川カラーが「街歩き」を特別なものにしてくれる。
温泉街だからこそできる「泊まれるアート」も人気だ。今回プロデュースされたのは二つの客室。天井や壁、床、ベッドやカーテンにいたるまで部屋全体にツバキの写真を施した洋室は、ドアを開けた瞬間にピンク、ピンク、ピンク。非日常の空間に圧倒される。とにかく、息をのむようなインパクトなのだ。
そして、東京・目黒川の夜桜を撮ったシリーズ「PLANT ATREE」をテーマにした老舗旅館の和室には、黒い畳が敷き詰められ、襖や障子、座椅子に夜桜の写真があしらわれた。外光が障子の写真を妖艶に照らし出し、昼間でもそこには、春の夜の静かな時間が流れる。蜷川作品の中でも大人っぽい雰囲気を味わうことができるこの部屋を求めて、海外からも予約が入るなど、評判は国境をも超えた。
「わざわざ美術館に行くのとは違って、街を歩けば自然と写真が目に入る。親しみやすく、間口が広いのがこの取り組みの面白さです。だからこそ、シンプルに『楽しかった』『面白いところだった』と思ってくれたらいい」
そう話す蜷川の狙い通り、作品にため息を漏らしたり、写真を撮ったりする旅行客の姿を街のあちこちで見かけた。
※AERA 2015年12月7日号より抜粋