ソコレンコさんはボランティア医師団の一員として前線に向かい、兵士や市民の治療にあたった(photo ソコレンコさん提供)
ソコレンコさんはボランティア医師団の一員として前線に向かい、兵士や市民の治療にあたった(photo ソコレンコさん提供)
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 ロシアによるウクライナ侵攻から1年、ウクライナの人々はどんなことを体験し、いま何を思うか。形成外科医のオレクサンドル・ソコレンコさんに聞いた。AERA 2023年2月27日号から。

【写真】現在は日本に留学中のソコレンコさん

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 ロシアに占領されたウクライナの都市は、何も残らないほど破壊されました。あらゆる都市が攻撃を受けていて、家族や友人が無事かわからない不安にさいなまれながら、日々を過ごしています。ウクライナにいる誰もが危険と隣り合わせだから、日本にいる私に「ご家族は大丈夫ですか」と聞かれると、私は「ノー」と答えます。

 ロシアによるウクライナ全面侵攻が始まった昨年2月、形成外科医として病院で働いていましたが、すぐに病院を辞めて、ボランティア医師団「ホスピタラーズ」の一員として前線に向かいました。兵士や市民の治療にあたりました。

 ロシアはウクライナの700以上の病院を破壊しました。私は三つの病院で爆撃を受けました。病院はずっと停電していましたが、私たちは活動を続けて人々を助けました。そんななか、近くで爆撃音が聞こえ、病院への攻撃が始まりました。私たちは地下室で手術を続けました。攻撃を受けて、手足や顔の一部がなくなった市民が搬送されてきました。物資は何もかも足りませんでしたが、できる限りの治療をして包帯を巻きました。前線には医師が少ないため、専門外でも手術を行いました。寝る場所もなく、トイレ付近で寝ることもありました。

 攻撃が終わって地上に出ると、病院の一部の壁は崩れ、すすけていました。救急車も爆撃を受けて焼けてしまいました。

 ウクライナの形成手術の技術は、まだ十分ではありません。医療システムも万全ではありません。私自身がもっと学ぶべきだと痛感しました。

 そんなとき、日本の順天堂大学にウクライナの医学生や研修医を受け入れる奨学金制度があると知りました。たくさんの友人がまだ前線にいるので離れるのはつらかったのですが、昨年9月に日本にやってきました。今は日本の医師の手術を観察したり、技術について調べたりしています。

 武士道の精神をはじめ、私は日本が好きです。けれども、今は日本を楽しもうとは思えません。日本に来て思ったのは、大勢の日本人はウクライナが戦争をやめて、ロシアと仲良くすればいいと感じているのではないかということです。

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