「対岸まで泳いで戻ってきたら許してやる」

 こうして吉田さんは、顔や胸などに打撲を負った痛む体で、服を着たまま、川へと入っていった。

 逮捕された16歳の高校生を知る少年によると、年齢による上下関係も緩やかで、メンバー全員がフラットな関係性だったという。グループ内で吉田さんが日ごろから暴行を受けるなどの「いじめ」も、なかったとみられている。

 思い出されるのは、4カ月前の「あの事件」だ。今年2月、川崎市の河川敷で中学1年生の男子生徒が遺体で見つかった。生徒は遊び仲間の少年らに、川で泳がされた後、ナイフで切りつけられ、殺害された。主犯格とされる少年の殺害動機は、被害少年が万引きを断ったり、被害少年の友人が加害少年に抗議したりするなど、グループ内の「秩序」を乱したことだとされている。

 2013年には、広島県呉市で高等専修学校2年生の女子生徒が殺害されたが、無料通信アプリ「LINE」で口論になったから、というのがその動機だとされる。逮捕された加害少年、加害少女らは、「ファミリー」と呼び合うほど結束が強く、誰も女子生徒への暴力を止めることができなかった。

 子どもたちは、集団の秩序やルールを犯した「仲間」に、刃を向けていた。

 筑波大学の土井隆義教授(社会学)は次のように話す。

「いまの子どもたちは、自らをキャラ化し、いつも相手の期待するキャラを演じようとする。そうすることで人間関係をつなぎとめているのです。そんな関係性では、予定調和を乱す振る舞いは、『地雷』です」

AERA 2015年6月22日号より抜粋

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