同居のトラブルにとどめを刺すのが、相続問題だ。「ウチは財産がないから大丈夫」と楽観していても、いざとなると、もらえる財産は少しでも多く――兄弟姉妹がぶつかり合って「争族」にならないよう、遺言書の作成は“義務”の時代になった。

 親が亡くなると、子の配偶者やその実家、孫までが、遺産相続の協議に口を出す。子も高齢になっているので、老後の不安は切実。だから子は、これまで以上に親の遺産をあてにする。そうした中で、それぞれの立場による公平感の違いが、「争族」を引き起こすという。

「同居して親の面倒をみたら、ほかの兄弟姉妹より多く相続したいと思うのは当然のこと。しかし、トラブルになってしまうと、解決方法は妥協しかない。だから最近は、同居を始める前に相談に来る人が増えています」(市川さん)

 親と同居して面倒をみてきた長男が、親の死後、遺言がないため、次男に「法定相続分を買い取るか、土地を売却して支払ってくれ」と迫られ、住み慣れた土地家屋を手放した──そんな事例は珍しくないという。

 そうしたトラブルの種を取り除くのが「遺言書」だ。

「遺言がないと法定相続になりますが、法定相続を公平だと納ていいほどもめる。遺言の目的は老後の生活確保。そのための手段が、同居して面倒をみてくれる子に多く財産を残すことです。同居する息子、とくにその嫁は、世話をした末に家を失うのでは、と不安に思っている。遺言書を作成して嫁の不安を取り除くことで、関係が良くなる嫁姑は多い」(市川さん)

 とはいえ、親に遺言書の話は切り出しにくいもの。市川さんは、こうアドバイスする。

「強制するのではなく、書いておかないと子どもが困ると気づいてもらうことが重要。両親が健在なら、一般的に寿命の長い母親が先に書くことで、父親が促されます。遺言は自筆より『公正証書遺言』のほうがいい」

 親が亡くなると、いったん親の預金口座は凍結される。もし公共料金を親の預金口座で決済していた場合、払えなくなる。解約もできない。凍結の解除には、金融機関に必要書類を提出しないといけないが、遺言書がなかったり、自筆の遺言書だったりすると、銀行所定の用紙に相続人全員の実印を押し、各々の戸籍謄本や印鑑登録も必要になる。公正証書遺言は公証人への手数料はかかるが、相続人全員の実印などは必要なく、比較的簡単に凍結を解除できる。

AERA  2014年9月15日号より抜粋