新幹線が延伸し、列島は狭くなった感じがする。
ネットでつながっているから、どこにいても働ける。
なんて思ったら大間違い。
本当に稼ぐ人たちは徒歩圏内で働き、住んでいる。(編集部・齋藤麻紀子)
渋谷駅から徒歩3分。オフィスビルの8階から見える渋谷は、一面の雑居ビル。お世辞にも眺めがいいとは言えない。34階建ての複合商業施設「渋谷ヒカリエ」の“後ろ姿”が、視界を大きく遮る。
食産業の求人サイトを運営するクックビズ(本社・大阪市)の代表、藪ノ賢次さん(34)は、そんなビルを、あえて仕事場に選んだ。2007年に大阪で創業。黒字化を機に12年、東京・恵比寿に東京オフィスを設けた。渋谷に移転したのは、事業拡大のため。社員数はこの2年で倍の50人近くにまで増えた。
藪ノさんの目には、大企業となったDeNAやLINEが入居するヒカリエが、渋谷の新たな“顔”に映る。
「シンボルの近くにいたかった。日々、ヒカリエの後頭部を見ながら、いつかあの場所に行くんだと、自分を奮い立たせているんです」
渋谷は1990年代後半、「ベンチャーの聖地」としての顔を持った。若者が次々と起業。新興市場に上場し、一夜にして億万長者になった。米国でITベンチャーが集積する「シリコンバレー」になぞらえ、「ビットバレー」と呼ばれた。その地が15年を経たいま、進化している。
●IT企業、渋谷に再集結
IT業界の情報をブログで発信する大柴貴紀さんは言う。
「この1、2年で、ITベンチャーが再集結している」
なぜ、再集結しているのか。そこは、やはり12年に開業したヒカリエの存在が大きい。渋谷のシンボルが誕生したのだ。さらに、90年代に生まれたIT企業が“メガベンチャー”と化し、その企業を取引先とする“スモールベンチャー”が周囲に集まった。スマートフォンの普及に伴い、アプリの開発など、ベンチャーの活躍の場が、さらに広がっているのだ。
渋谷では、IT企業が徒歩圏内に集まっているから、他社の社員であっても同僚感覚で気軽に食事に誘い合う。だから、ランチも飲み会も、ビジネスの場になる。気が合えば、自社に引き抜くこともある。
80年生まれの藪ノさんは、自称「ロールキャベツ男子」。表向きはキャベツのような“草食系”で、物腰も柔らか。だが、相性を感じる人とは何度も会い、ときに熱くビジョンを語る。そのためにも、気軽に会える距離にいることが大事なのだ。
「相性を感じた人には、4度目くらいにキャベツを脱いで“肉食系”の説得をします」(藪ノさん)
商談や打ち合わせも、楽になった。渋谷のITベンチャーに勤める営業担当者(30)の移動手段は、「主に、徒歩」だ。