ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」。しかしよく考えてみると、一体どこからどこまでが和食なのだろうか?
寿司にとんかつ、てんぷら、カレーライス……日頃食べている料理の、どこまでが和食なのか。改めて考えると難しい。『和食と日本文化』(小学館)などの著書がある国士舘大学教授の原田信男さんは、「日本人が作り出した日本にしかない料理」と定義する。独自の発展を遂げたカレーライスやラーメンも、和食に入るという。
原田さんは、「和食の原型が完成したのは室町時代」と言う。それまでは、貴族階級は干物や生ものに、めいめいが調味料を付けて食べていた。だが、室町時代に中国から精進料理が入ってくると、素材を加工し昆布出汁をベースに味付けして出すようになった。
江戸時代後期になると、料理屋が発達し、料理本やグルメガイドが出版されて、上流階級の食文化が庶民にまで広まる。
1871(明治4)年、天皇の「肉食再開宣言」後、西洋料理、中国料理が積極的に取り入れられ、和食と組み合わせる折衷料理が発展し、現在に至る。
「和食の内容は時代によって違うし、文化は様々な国や地域との相互関係の中で発展するもの。いま一度和食の成り立ちについて知ることも必要なのでは」(原田さん)
一方、和食にカレーやラーメンを入れるかは微妙、と言うのは、『家庭料理の近代』(吉川弘文館)などの著書がある東京家政学院大学名誉教授の江原絢子さん。江原さんが考える和食とは、ご飯に汁やおかずを合わせる料理だからだ。
「歴史の中で一番長く続いてきたのが、コメなど穀類を炊いたご飯を主食にする文化です」(江原さん)
近代を、西洋料理や中国料理をいかにご飯に合わせるか工夫した時代と位置づける。例えば西洋料理のカツレツから発展したとんかつは、箸で食べられるように切って出す。付け合わせはパンに合う温野菜だったが、キャベツの千切りに替え、ご飯に合うおかずになった。
「日本人が変わらず大事にしてきたのは、口と舌、目、鼻、そして心で味わうこと。作ってくれた人や食べ物をもたらした自然に感謝するんです」(江原さん)
※AERA 2014年3月31日号より抜粋