ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「浜崎あゆみさん出産」について。
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今年の正月も例年通り暇を持て余すだけ持て余した結果、太りました。体重計が埃まみれなため、何キロ太ったか定かではありませんが、確実に太りました。女装界では「少しぐらいふくよかな方が女性っぽさが出る」なんて言われたりもしますが、私の場合そこに甘んじて気を抜いていると、たちまち腕が引退したレスラーのようになり、ただひたすら強靱さだけが際立ってしまう。女装だけの舞台に立つのと、華奢で小柄で小顔だらけのテレビ画面の中に存在するのとでは、視界や奥行き・遠近感がまったく異なります。私はこの恵まれた身長・体格・骨格という絶対的現実を常に意識しておかなければならないのです。
そう言えば、テレビに出始めの頃「毒舌キャラなら痩せ過ぎないこと!」と当時のマネージャーに言われたことがあります。特に毒舌を売りにしているつもりも、していくつもりもなかったものの、マネージャー曰く「ただでさえ痩せている人はキツイ印象を持たれがちで、同じような毒を吐いても、太っている人より意地悪そうに見えてしまう」らしく、明らかに特定の誰かと比較してのアドバイスでした。しかしそれで私が「気をつけます」などとなるはずもなく。なぜなら私の底意地の悪さは体形の問題以前に、生まれつきの性分だから……。
そんな思い出に耽っていたところへ、唐突に飛び込んできた「お浜さん極秘出産」のニュース。お浜さんとはもちろん浜崎あゆみさんです。相変わらずこの人の自己発信力は徹底しています。狙い定めた絶妙なタイミング。「みんな聞いてー!」と叫びつつも、ポーカーフェイスで勿体振る感じ。この分かり易く不安定な情緒こそがお浜さんの根底に流れる性(さが)であり、彼女自身が捉える「自分の値打ち」なのだとしみじみ実感した次第です。さり気なさをアピールすればするほど、何故か不自然な「力(りき)み」と「自意識」が滲み出る。究極の芸能人(エンタティナー)であると同時に、究極の「かまってちゃん」。2020年はその本領が発揮される時なのかもしれません。オリンピック真っ只中に富士山麓で夜通しライブとか、24時間テレビで「あゆ子ども基金」設立とか。そのくらい奇想天外な闘いを挑んでくるのがお浜さんです。期待しています。