気になる人物の1週間に着目する「この人の1週間」。モデルとしてパリコレに出演、英会話スクールのCMで見かけた人もいるだろう。映画「風の電話」では東日本大震災で家族を失った高校生役に挑んだ。観る人に忘れられない印象を残す女優、それがモトーラ世理奈さんだ。
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1月24日公開の「風の電話」のストーリーは、2011年、岩手県大槌町のガーデンデザイナー・佐々木格さんが自宅の庭に設置した電話ボックスがもとになっている。「死別したいとこともう一度話したい」という思いで置かれた電話は、実際はどこにもつながってはいない。だが、東日本大震災以降、「天国につながる電話」として広まり、「故人ともう一度、話したい」という3万人以上の人々がその場所を訪れている。
モトーラさん演じる主人公ハルは、東日本大震災で家族全員を失った高校生。広島で暮らしていたが、あるきっかけで大槌町へ帰ろうとヒッチハイクをはじめる。感情の起伏がなく言葉もほとんど発しないハルは道中でさまざまな人と出会い、助けられながら故郷を目指し、最後に「風の電話」へと辿(たど)り着く。
「ハルは震災で家族を亡くし、ひとりぼっちになってしまった。私がいくら考えても想像できないことだけれど、でもそれが起こるまでは家族のことが大好きな普通の女の子だったはず。そこは自分と同じなのでその気持ちを一番の核に持っていよう、と演じました」
「なぜ、みんな奪っていくの?」──旅のはじまりにハルが叫ぶ悲痛な言葉は自身の心から出たものだ。諏訪敦彦監督は、役者の自然な演技を引き出す「即興芝居」で知られている。
「あのときあの場所で、もうどうなってもいい、もう死んでもいいや、という感情がわき上がって、言葉が自然と出てきました」
諏訪監督はモトーラさんについて「質問すると、返ってくるまでにすごく時間がかかる。わかりやすいコミュニケーションにはならない。それが魅力」と語る。このインタビューでも最初の質問に対し、答えが返ってきたのは3分40秒後。じっくり考えて答えを探し、丁寧に話す。そんなひたむきさがハルと重なる。