記念展は地上52階。東京を一望しながら、細野さんが活動してきた場所を確認できる。彼は音楽仲間の松本隆さんと都電に乗っていた。青山通りから赤坂に下るあたりでレールが交差していた。以前東京にも大雪が降った。そこに轍(わだち)がくっきりとでき、その記憶は幼少期に繋がった。「サザエさんの世界。人も空気も優しい。ローカルな良さが沢山あったんだよ」。そんな細野さんの『手紙』が下地になって名曲『風をあつめて』が生まれた。隠れん坊や鬼ごっこ、草野球など、高度成長で失われた記憶。この曲は東京の原風景を懐かしむ都会少年の吟遊歌だったのだ。
ソフィア・コッポラは、東京を訪れた異邦人の寄る辺なさを『ロスト・イン・トランスレーション』で描いたが、その中で『風をあつめて』を使用した。そのせいかギャラリーには海外から若い客も訪れて“HOSONO……”と呟いていたし、20代の僕の息子の本棚にも「ミュージック・マガジン 特集細野晴臣」がある。YMOのヴォイス“TOKIO”と今の「東京」。デビュー50周年記念ドキュメンタリー『NO SMOKING』も来月公開と、古い、新しいという線的な動きではなく、時代は円を描いて循環している。
※週刊朝日 2019年11月1日号