インターネットオークション「ヤフオク!」に、びっくりさせられる出品があった。戦後初の国産旅客機として知られる双発プロペラ機「YS11」。入札のスタートライン「現在価格」は3500万円で、セリ無しで落札できる「即決価格」は5000万円に設定された。
注目が集まったのは、すでに退役した保存機ではなく、直近のフライトは6月20日、という現役バリバリの機体だから。耐用年数はあと10年近くが見込まれているそうだ。
出品されたのはスリランカの航空会社サクライ・アビエーションの機体。同社の統括マネジャー鈴木俊克氏によると、YS11を利用したスリランカ旅行を計画して、フィリピンで稼働していた同機を買い付けたものの、今年4月にスリランカでテロが発生し観光客が激減。19人乗りの別の航空機を利用する計画に変更したため、売りに出すことに。
9月6日に出品されたと、航空機ファンを中心にすぐにネットで話題になった。このオークションを紹介したツイートは、あっという間に5千回以上リツイートされた。高須クリニックの高須克弥院長は自身のSNSで、
「セリに勝つ自信はある」
と意欲を示し、オークションの成り行きに、いっそう注目が集まった。
ところが、入札締め切り日の9月12日、1人の入札もないままにオークションは終了してしまった。
サクライ・アビエーションに問い合わせると、「問い合わせの電話はたくさんありましたが、12日に“口座番号を教えてくれ”という方がいて、即金で5000万円振り込みたい、とおっしゃるので取引が成立しました。15時ごろ入金を確認し、オークションを終了させました」
鈴木マネジャーはこう明かす。
「購入されたのは、著名な日本のビジネスマンです。日本に運んで認証試験を受けるなど様々な手続きもあるでしょう。保管場所も必要になるので、どなたが買われたかはいずれ明らかになるのでは」
引き渡し後の格納庫整備費用は推定で月30万~50万円。運用するならパイロット費用その他で月数百万の維持費も。そんなお金持ちは限られているはずだが、それにしても誰だろう。こんなせわしない時代に、あえて「プライベート・プロペラ」を求める奇特な人は。
東京五輪の2年前、1962年に初飛行を果たし、「戦後復興の象徴」と親しまれた存在。昭和は遠くなりにける今、その行く先が気にかかる。(本誌・鈴木裕也)
※週刊朝日オンライン限定記事