明治、大正、昭和と激動の日本列島を駆け抜けた蒸気機関車(SL)。現代ではアニメの世界から来たキャラクターとして、はたまた懐かしの汽車ぽっぽとして、老いも若きも楽しませる。この夏、「SLワンダーランド」へ、さあ出発進行!
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蒸気機関車は重厚でなければならない。50代半ばの記者の心には、いまも国鉄時代の、真っ黒なSLが雄々しく走っている。根が鉄道好きなだけに、大井川鐵道のSL列車が評判と聞き、乗ってみたくなった。
いざ現地で「きかんしゃトーマス号」を前にすると、しゃれたブルーの車体が頼りなく見えた。
「おもちゃっぽいよ」
ちょっと斜めに見ながら乗り込んだ。
午前10時38分、トーマス号は勢いよく汽笛を鳴らし、新金谷駅を出発。
車内ではトーマスがいろんなお知らせをする。自分たち蒸気機関車のこと、大井川のこと……。にぎやかな声に耳を傾けながら、沿線に目を向けた。
そこかしこで人が手を振っている。仕事の手を止めて、一列になって、集団に旗を振る人もいた。速度がゆっくりなので、お互いの顔が見える。
「これは楽しいかもしれない」
おじさんも少しずつトーマスの世界に引き込まれていく。
英国紳士のトップハム・ハット卿が飛び出してきて、乗客に丁寧にあいさつをする。車内がイギリスのアニメのイメージを帯びてきた。
窓の外に目をやると、大井川がのび、日本の原風景がスローモーションのように映し出される。ここは静岡。茶畑の緑と空の青が広がる。
普段と違う時の流れ。旅情がわいてくるよなあ。
そんな思いにふけっていると終点・千頭(せんず)駅に到着。約90分のちいさな旅だったが、トーマスの世界に魅了されてしまった。千頭駅にはトーマス号のほか、ジェームス号などが勢ぞろいし、にぎわっていた。
終点で列車から降り、今度は正面からトーマス号を見つめ、
「楽しかったよ」
思わず、声をかけた。
トーマス号を運行する大井川鐵道は、旧国鉄がSLの営業運転を終了した翌1976年、いち早くSLの動態保存に着手した。