東武鉄道はSLだけを復活させたのではない。

「昭和レトロの再現をイメージしているため、客車も昭和40年代から50年代に四国で使われていた14系という特急や急行などに連結されていた車両を当時のまま修繕して使用しています」(守都さん)

 かつて花形列車だったブルートレインを思わせる青い車体。中に備えられた濃紺のシートは、少しリクライニングさせることができ、その昔、ちょっとぜいたくな座席だった。

 大樹に乗務する車掌は、金モールの装飾を施した昔風の制服を着用し、レトロな雰囲気を醸し出す。

 大樹の始発・到着駅のひとつ、下今市駅は当時の昭和レトロな木造の駅に改築した。

 構内には当時を彷彿(ほうふつ)させるポスターを掲示、あかりは暖色系、駅名表示は旧字体を使う、という徹底ぶりだ。

 大樹は日光・鬼怒川地域を約35分間走る。大井川鐵道と同じく、沿線では多くの人が手を振ってくれる。

「中には手作りの横断幕を掲げる人もいますよ」(同)

 SLファンにとって、走る姿、迫力のある音、独特の石炭のにおいなどを感じられるのが喜びだろう。

 しかしいまやSLは、一部の鉄道ファンだけが楽しむものではない。

 大樹の場合、東京スカイツリーがある浅草エリアから2時間ほど移動すると、大樹で昭和の時代にタイムスリップできる、というコンセプトだ。

 昭和レトロやアニメのイメージなどを感じさせ、沿線を含めたエンタメ世界へと人々を牽引(けんいん)していく。それが今風のSL像なのだ。

 この夏、いかがですか。(本誌・鮎川哲也)

週刊朝日  2019年8月16日‐23日合併号

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