ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「プロダクション」を取り上げる。
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大手と呼ばれる芸能プロダクションはたくさんあります。世間的にも名前が知られているところ、そうでないところ様々ですが、あくまでプロダクションというのは、お客様や視聴者からすれば「舞台裏」の存在です。
しかし「舞台裏(プロダクション)」そのものが、芸能の価値やジャンルを確立し得ているケース(宝塚などの劇団系は除く)もあります。ずばり! ジャニーズ事務所と吉本興業です。両社の存在感たるや、今や日本人の暮らしに根付く「概念」にさえなっている状態。例えば若い男子のタイプやジャンルを表す「ジャニーズ系」という言葉の普遍性。また特に西日本方面において「よしもと」は、「野球選手」や「パイロット」などと並んで、子供の将来の夢や目標のひとつとして挙げられるとか。
他にも古くから名前が浸透しているプロダクションと言えば「ナベプロ」や「ホリプロ」などがありますが、テレビを通してその構造までもが世の中の共通認識として受け入れられているのは「ジャニーズ」と「よしもと」だけです。私は子供の頃から芸能が好きですし、自らもその世界にいる人間ですが、ふと「これって、本当に世間全般のコンセンサスなのかしら?」と疑問に思うことがないわけではありません。かつて解散騒動の渦中にあったSMAPが自らのテレビ番組で世間にメッセージを発表した際、メンバーのひとりが「ジャニーさんに謝る機会を持つことができた」的なことを言いました。それを観ながら「ジャニーさん」という一(いち)プロダクション社長の固有名詞が、当然のごとく世間と共有されている事実に驚いた記憶があります。仮に私が所属プロダクションの社長の名前をテレビで口にするならば、「事務所社長である○○さん」とか「○○社長」と言わなければ、観ている人はおろか、その場にいる人にさえも伝わらないですし、その説明義務は社会人として当然でしょう。しかし、ジャニーさんは「ジャニーさん」で問題ないのです。