『ザ・ソング・ブック』(Prestige)
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 前回のデクスター・ゴードンに続いて、今回もテナー奏者の名盤をご紹介しよう。ブッカー・アーヴィンはソニー・ロリンズほどの知名度や、ジョン・コルトレーンのような強烈なメッセージの持ち主ではないが、テナー・サックス好きならまず間違いなく気に入るジャズマンだろう。

 その理由は、前回デクスター・ゴードンについて言ったことと同じで、テナー・ファンはこの楽器の持つ豊かなサウンドに惹かれるからだ。そして、多くの人がこの楽器に託すイメージどおりの豪快な演奏が、ブッカー・アーヴィンの魅力なのである。しかしこの説明だとデクスター・ゴードンと同じになってしまう。

 確かにこの二人は、オーソドックスなスタイルの黒人テナー奏者ということでは、同じタイプといってよいかもしれない。だから今回は二人の違いを説明することで、ブッカー・アーヴィンの個性を際立たせてみよう。まず音色。どちらも骨太だが、どちらかというとデクスター・ゴードンのほうが滑らかで、ブッカー・アーヴィンはよりサウンドの腰が強い。

 フレージングも、両者ともに泉のごとくアイデアが湧き出るタイプだが、デクスターのフレーズの特徴が柔軟性にあるとすれば、ブッカー・アーヴィンはゴリゴリと押し捲るパワー感が聴き所となっている。また、ゴードンが黒人ミュージシャンにしてはさほどアクの強いタイプでないのに比べ、アーヴィンはよりアーシーな感覚を前面に出すので、いわゆる黒っぽさはアーヴィンの方が強烈だ。

 つまり、ホットなサウンドで吹きまくるアーシーなテナー奏者のナンバーワンがブッカー・アーヴィンなのだ。このアルバムはアーヴィンの代表作で、トミー・フラナガンをサイドに従えたシンプルなワンホーン・カルテット。

 聴き所はファナティックに吹きまくるアーヴィンのテナーで、ためらうことなくフレーズを繰り出すさまは実に豪快。また、それを後ろから小気味よく煽り立てるアラン・ドウソンのドラミングのカッコよさも特筆ものだ。そして、イケイケ路線の二人に対し、じっくりと落ち着いたバッキングを付けるいぶし銀のピアノが「名盤の影にトミフラあり」といわれた名手、トミー・フラナガンなのだ。まさに役者のそろった名演、名盤といってよいだろう。

【収録曲一覧】
1. The Lamp Is Low
2. Come Sunday
3. All The Things You Are
4. Just Friends
5. Yesterdays
6. Our Love Is Here To Stay

ブッカー・アーヴィン:Booker Ervin (allmusic.comへリンクします)

Alan Dawson(Drums), Booker Ervin(Tenor Sax), Richard Davis(Bass), Tommy Flanagan(Piano)

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