例えば、老齢基礎年金(国民年金)を65歳から受け取る場合、満額で年78万100円。これを70歳まで繰り下げると、110万7742円に増える。1カ月当たり6万5008円から9万2312円へと3万円近く上がる。
政府はこれまで、「繰り下げはお得」だとアピールしてきた。65歳を過ぎて働く人が増えるなか、受給開始年齢を遅らせたほうがたくさん年金をもらえるという説明だ。こうした働きかけもあって、繰り下げる人はじわじわと増えている。
国民年金だけをもらう世帯で繰り下げを選んだ人は、13年度の10万2165人(全体に占める割合は1.3%)から、17年度の10万5727人(同1.5%)まで増えた。
これに対し繰り上げたのは、304万3973人(同38.6%)から234万1099人(同32.3%)へと減った。
しかし、繰り下げは本当にお得なのか。年金制度に詳しい社会保険労務士の北村庄吾氏はこう話す。
「65歳以降も働く比較的高給の人を中心に、本当にお得なのかどうか問い合わせるケースが相次いでいます。繰り上げや繰り下げを選ぶことで、もらえる年金は生涯にわたって決まります。大事なのは、自分のライフプランに合ったもらい方を考えることです」
まず踏まえておくのは、年齢による「損益分岐点」だ。
国民年金だけを受け取る人を想定して、65歳で年80万円を受け取ると仮定しよう。60歳まで5年繰り上げた場合、受取総額は76歳8カ月までに亡くなれば得する計算だ。それより長生きすれば、繰り上げないほうが良かったことになるが、自分がいつ死ぬかを正確に予想することは難しい。
70歳まで5年繰り下げた場合、81歳10カ月まで生きれば得をする。長生きする自信があれば、政府がアピールするように繰り下げたほうが受給総額は大きくなる。
逆に言えば大損をする可能性もある。早く亡くなることで保険料だけ払って年金を受け取らない人が増えれば、年金財政は助かる。70歳超まで繰り下げられる制度の導入を政府が急ぐのは、少しでも負担を軽くしたいという思惑がありそうだ。