ニューヨーク・アティチュード
ニューヨーク・アティチュード写真・図版(1枚目)| 『ニューヨーク・アティチュード/寺久保エレナ』
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限りない将来性を感じさせる本邦女性のアルトサックス
New York Attitude / Erena Terakubo

 過去10年間で、特に女性アルトサックス奏者の人材が豊かになっている本邦ジャズ界。昨年6月にデビュー作をリリースした“台風の目”と呼ぶべき存在が寺久保エレナである。数年前から「北海道に天才少女がいる」との話は東京にも伝わっていた。山下洋輔が絶賛し、佐山雅弘がツアー・メンバーとレコーディングに起用。著名人に才能を認められたことで、デビュー作への期待が高まったところ、いきなりニューヨーカーをブッキングした現地録音を実現させたのだから、やはり並ではない。同作『ノース・バード』は北国のチャーリー・パーカーに由来する、山下命名のニックネームをアルバム・タイトルに冠した。

 ケニー・バロンとクリスチャン・マクブライドの参加は、普通なら大物過ぎて過度の緊張感を誘発しかねないが、エレナは実力者を味方につけて、期待以上の作品に仕上げてみせた。

 エレナの強心臓ぶりを伝える、もう1つのエピソードを紹介したい。昨年9月の《東京JAZZ 2010》での、ロン・カーターとの共演ステージ。米国人のヴェテランが高校3年生の日本人アルト奏者を助演するセッティングだったわけだが、演奏が進むにつれて様相が変化した。エレナに刺激されたオマー・ハキム(ds)が本気モードになり、クァルテットの中心軸を形成し始めたのでる。百戦錬磨の共演者についていくのが精一杯どころか、一緒になって強力なグルーヴを現出。これにはすっかり驚いてしまった。

 本作はデビュー作からちょうど1年を経たリーダー第2弾だ。リズム・セクションはベースが前作のマクブライドに替わってカーターが参加。急速調のバロン提供曲#1はいきなりピアノがエンジン全開で、エレナも難易度の高い演奏をこなす。敬愛する渡辺貞夫が書いた#2では、大先輩の遺伝子を受け継ぐかのような吹奏を披露するのが頼もしい。サックス関連の楽曲ではウェイン・ショーター作曲の#4。ここでのアグレッシヴなエレナは、バッパーの枠に収まりきらないアルティスト魂を爆発させていて、急成長ぶりが著しい。2つの自作曲は、肩の力を抜いたバラード#5にエモーショナルな#8と対照的で、作曲力も着実に前進。今秋からはボストンのバークリー音大への進学を控え、限りない将来性を感じさせる新作だ。

【収録曲一覧】
1. New York Attitude
2. One For You
3. Star Eyes
4. Oriental Folksong
5. That’s The Truth
6. Invitation
7. This Here
8. Fascination
9. Del Sasser
10. Body And Soul

寺久保エレナ:Erena Terakubo(as)
ケニー・バロン:Kenny Barron(p)
ロン・カーター:Ron Carter(b)
リー・ピアソン:Lee Pearson(ds)
ドミニク・ファリナッチ:Dominick Farinacci(tp,flh)

2011年4月NY録音

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