何とかして、しゃべる仕事で身を立てないといけない。上岡さんというお手本から何でも吸収してやろうと、くらいつきましたね。名古屋で仕事があると、よく家にも泊まりに来てくれました。
解説の仕事は、好き放題しすぎて、局の人ともケンカしたりして、何年かあとにクビになりました。こっちは、どうせなら面白くしたいと思って、監督のブロックサインを当てるとか、新しいことをどんどんやってたんですけどね。
そっから、上岡さんに呼んでもらって大阪の番組に出たり司会をさせてもらったりしているうちに、いつの間にかすっかりタレントになってました。
そこからまた、いつの間にか俳優もやらせてもらうことになりました。テレビドラマ「金曜日の妻たちへII 男たちよ、元気かい?」(84年)に出してもらって。脚本の鎌田敏夫さんが、ぼくの野球解説を聞いて、面白いと思って呼んでくれたみたいです。チョイ役かと思ったら、篠ひろ子さんの相手役で、セリフもいっぱいある役でした。
――どこかとぼけた味わいが好評で、俳優としても引っ張りだことなる。5年後の89年には、映画「あ・うん」に出演。高倉健との共演も、板東にとって「大事な出会い」のひとつだ。
あの健さんも、ぼくの前ではおしゃべりでしたね。大好きなコーヒーを飲みながら、朝までいろんな話をしてくれるんです。具体的に教わったというより、仕事に対する真剣な姿勢とか共演者への気遣いとか、勝手に学ばせてもらいました。
「あ・うん」では、おかげさまで賞ももらいましたけど、俳優としてどうなのかは、自分ではさっぱりわかりません。健さんの言うとおりにやっていただけです。
ただ、テレビドラマにしても映画にしても、やり直しがきくのはありがたい。野球は「テイク・ワン」だけですから。バラエティー番組にしても、テイク・ワンだけのときもあるけど、なにも共演者が自分を倒しに来るわけではありません。
それに、しゃべる仕事や芝居は、模倣ができる、とぼくは思うんです。野球はいくらフォームをまねても、同じ球が投げられるわけではないですからね。