『マイルス・オン・マイルス:インタヴューズ・アンド・エンカウンターズ・ウイズ・マイルス・デイヴィス』ポール・マハー/マイケル・K・ドール編集
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 本書『マイルス・オン・マイルス』は、マイルス・デイヴィスのきわめて重要なインタヴューを一冊にまとめた選集である。

 マイルス・デイヴィスの音楽観、人生観、あるいは時代観を知る上での必読書であり、ジャズの偶像が、気難しく無口な一面と率直で多弁な一面をあわせもつ複雑で矛盾に満ちた人物であることをあきらかにする。

 マイルスは、音楽の天才であったばかりか、謎めいた存在でもあった。このインタヴュー集においては、その捉えどころのない天才が、本領をいかんなく発揮し、人をいやおうなしに惹きつけ、神経を逆なでしつつも楽しませる。本書で展開されるダイアローグは、彼の自伝にも勝る臨場感を伝える。

 インタヴュアーには、ナット・ヘントフ、アル・アロノウィッツ、クリス・アルバートソン、レナード・フェザー、スティーヴン・デイヴィス、エリック・ニセンソン、ベン・シドラン、ニック・ケント、ピーター・ワトラス、マイク・ズワーリンといった錚錚たるジャーナリストが顔を揃える。また新たにラジオ番組やテレビ番組から抜粋されたインタヴュー、あるいは忘れられて久しい雑誌に掲載されていたインタヴューを、活字として紹介している。

 本書はこれまでになく、マイルス特有の肉声を、黙想しつつ挑発し、簡潔でありながら的を射たシビアでユーモラスな彼らしい語り口を彷彿させる。『マイルス・オン・マイルス』は、活字の中でレジェンドとの邂逅を待ち望んでいた人々にとって、長く決定版になることだろう。

●マイルス語録(本文より)

「オレ自身の演奏をどう思うかだって? オレは自分のレコードを一枚ももっていないんだ。作ったあとに聴く気にはなれない」

「172歳まで生きられないと思うと気が滅入るぜ」

「テレビの白人野郎を物笑いの種にする、これがオレの一番の趣味だ」

「笑わせるな、オレの言ったことが全部わかるのなら、おまえはオレだろうよ」

「葉巻をふかしながらふんぞり返っている白人は動こうとしない。何だってまったく同じでいいんだ。奴らは強制されなかったら何もしないだろうな。それがオレたちの音楽との違いだ。オレたちの音楽は、動かない白人の動かし方を悟らざるをえなかった人種から生まれたんだ」

「オレのエゴは、いいリズム・セクションが必要なだけだぜ」

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