記者経験を存分に生かした描写、人物像の構築。そのリアリズムがエンターテインメントとしての質を高めている。何よりも業界に対する冷徹な現状認識が印象的だ。
荒木さんは子どもの頃からの文学好き。ファンタジーや幻想系の作品を好み、クリエイター志向が強かった。大学の専攻は仏文科で映画サークルに所属。ディレクターを志望してテレビ局を受けたが失敗し、新聞記者になった。その経歴が冷静な視点につながっているのかもしれない。
「特に正義感が強いわけではなく、朝日の人間としてはあんまり正統的じゃなかったですね。ところが入社してみたら仕事がおもしろくてたまらず、作品に書いたように司法クラブに泊まりこんでいた時期もありました。実は幻想系ではなく、権力闘争のような『切った張った』の泥まみれ系が好きだったんです(笑)」
舞台は現代だが、荒木さんはギリシャ悲劇のようなものと思って書いているという。
「つまり普遍性がある。いつの時代にも存在する悲劇の神々しさがある物語です。映画でいうなら『ゴッドファーザー』みたいなもの。どなたにも楽しんでいただける作品になったと思っています」
(ライター・千葉望)
※AERA 2023年2月20日号