■事前に「治療計画」を説明する必要
口の中はからだの中でも特に感覚に敏感な部分で、薄い紙を1枚かんでも、その感触がわかるほど。修復物がきっかけで(通常は自然に慣れるのですが)違和感が続き、うつ状態になる人もいるほどです。このようなデリケートな部分を処置する歯科治療では、完璧な治療をほどこしても、その後、痛みや腫れなどが起こってくることが珍しくありません。
そのような状態の歯や歯ぐきにすぐにまた、新たな刺激を与えればどうなるか、想像がつきますよね。最近は歯科でも、「治りが早い」「治療期間が短い」などとうたわれる治療が登場してきていますが、デメリットも考慮したうえで、受けるかどうかを慎重に判断すべきだと思います。
なお、本来であれば歯科医師が事前に「治療計画」を説明する必要があることもまた、事実です。説明がなければ患者さんから聞いていただくのがいいでしょう。典型的な例と治療パターンを以下に挙げてみましたので、参考にしてください。
[進行したむし歯の場合]
削る部分が多くなるため、大きな詰め物やかぶせものなどの修復物が必要。治療ではむし歯の部分を削った後、患者さんの歯の型を取り、歯科技工士に修復物の作製を依頼→完成後、患者さんの歯に入れる(受診回数2回程度)。
[神経(歯髄)まで感染している重度のむし歯]
神経が死んでしまっている場合、むし歯を削り、修復物をかぶせる前に神経の処置をていねいにおこなう必要がある。具体的には神経を取り除いた後、神経の通っていた管(根管)に細い金属性の器具を差し込み、消毒をしながら、根管の形を整えていく。形を整えるのは消毒後に根管充填剤を詰めるため。この処置をきちんとやらないと菌が残ったり、再び外部から感染して根尖(根管の先端)に炎症が起こったりして、再治療や抜歯が必要になるリスクが高くなる(受診回数2~5回程度。*前歯か奥歯か、あるいは神経の数などによって異なる)。
[進行している歯周病]
歯周病検査後、見える部分の歯石を取り除くだけでなく、歯周ポケットを剥離して内側にある歯石を取り除く外科手術なども必要になることが多い(最低でも2~3カ月の治療期間が必要)。
このように歯科の治療は複数回続きます。「いつまで何回治療するの?」という疑問は、治療を始める前に歯科医に聞いておくといいでしょう。
◯若林健史(わかばやし・けんじ)
歯科医師。若林歯科医院院長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事、日本臨床歯周病学会副理事長を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演