勝ち点も得失点差もセネガルと並んだ状態で、日本を決勝トーナメントに推し進めたのはイエローカードの差。今大会から導入の『フェアプレーポイント』という制度だそう。真っ向勝負を放棄して、裏でセネガルが負けることに賭けるという他力戦術を取った日本にとっては何とも皮肉なネーミングです。それにしても最後の11分間。パスを回し続ける選手、見守るベンチ以上に戸惑っていたのは、実況アナウンサーと解説陣だったのではないでしょうか。誰ひとりとして「逃げ切れ、ニッポン」とか「決勝トーナメントにさえ進めればいいんだ、気にするなニッポン」といった言葉を発する人がいなかったのは、いわゆる「勝負は最後まで全力で正々堂々と」という日本人のスポーツに対する精神性において、あの短時間では乗り越えられない矛盾があったからだと思います。ある意味彼らは日本人を貫いた。

 さて、この日本サッカー史に残る『勝利という名の敗戦』を、世の中は今後どのように伝えてゆくのか気になるところです。『ヴォルゴグラードの11分』『ヴォルゴグラードの賭け』『ヴォルゴグラードの後味』いろいろ出てきそうですが、早くも「観客はお金を払って観ているんだからつまらない試合するな!」「W杯のチケットは高額なんだぞ!」といった論調が高まっている様子。散々分かったような口を叩いておきながら、結局最後は金かい! 思っても口に出したら無粋。

「何を言われようと、あの時は決勝トーナメントに進むための賭けに勝ったんだ」と胸を張って語り継いでゆくべきだと思いますが、この調子だと「あの件には極力触れないように」的な自主規制案件化しそうな雰囲気です。ともすればドーハの二の舞いだったというのに。

週刊朝日  2018年7月20日号

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?