白石:恋人はいなかった。結婚は頭になかったわね。私ね、自分の人生で唯一悔しいのは、子どもがいないこと。
林:ご結婚は四十……。
白石:46歳のとき。
林:ご主人とは、劇団に入ったときから一緒だったんですよね。どうせ結婚なさるなら、もうちょっと早くにとは、いかなかったんですか?
白石:いかなかったの。日常性を否定してすべてを捨てて芝居にかけろというような劇団で、私もそれに同調していたし、私が入って9年くらいで東京から富山に本拠地を移したんですが、(隣の深尾さんを指して)この人は富山に移るのに反対で、役者をやめちゃったんです。再会して結婚したのが12年後。
林:早稲田小劇場って70年代のサブカルチャーの旗手でしたものね。すごくとがった方たちがいて。
白石:今までの演劇界のあり方を、ものすごい言葉で批判してたんです。みんなインテリで、高校しか出てないのは私くらい。私はちょっと変わりダネというか体の使い方とかが特殊だったから、劇団の主宰者だった鈴木忠志がおもしろいと思ったんじゃないかしら。たまたまそうなったことで、「自分こそが主役だ」と思っていたたくさんの才能がはじかれていくんですよね。そうやって人を犠牲にして出てきてるんです。
林:昔のお仲間、今の白石さんのご活躍をお喜びなんじゃないですか。
白石:どうかな。「いつも加代子が中心じゃつまらない」「もう魅力もなくなってるのに」という意見もあったし、それでやめていった人たちもたくさんいたのね。
林:もちろん悔しい気持ちもあるでしょうけど、自分たちが土壌となって花を咲かせたというお気持ちがあると思いますよ。
白石:そうね。脱退組の人たちとはいま仲良しで、ときどきごはん食べたりする。ある時期までは反感みたいなものがあっても、もう76歳ですからね。「よかったな、頑張ってるな」と思ってくれてるかもしれない。
林:今、白石さんと一緒にやりたいという脚本家や演出家って、いっぱいいるんじゃないですか。
白石:いない、そんな方。
林:次の大河の「いだてん」だって、宮藤官九郎さんが白石さんを指名したんでしょう?
白石:いえいえ、そんなことはありません。