2月9日に開幕した平昌五輪。だが、現地はスポーツ以外の話題で持ち切りだ。
特に注目されるのは、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の妹で、党宣伝扇動副部長の金与正氏だ。30歳ながら北朝鮮の実質ナンバー2とも言われる人物の訪韓は何を意味するのか。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏はこう語る。
「与正氏はロイヤルファミリーの王女様。開会式でニコニコ笑って手を振る役目で、核問題などで具体的な交渉をすることはない。五輪はいわば国威発揚の宣伝合戦。北朝鮮は『美女軍団』として知られる三池淵管弦楽団の玄松月団長が韓国メディアにスター扱いされるのを見て、与正氏を送り込めばさらなるフィーバーとなり、競技で目立たなくても自国の存在感誇示につながると考えたのではないか」
その効果か、開会前の韓国メディアの五輪報道はどこも北朝鮮の話題がトップ。“平壌五輪”と揶揄されるほどだ。スケートなどの会場がある江陵では、8日夜に三池淵管弦楽団が演奏会を開き、会場周辺には多くの見物客が押し寄せた。
「江陵でのチケットの倍率は約140倍。公演の1時間以上前から行列ができていました。近くでは『醜い政治的五輪に反対』『文在寅アウト』などと書かれたプラカードを掲げた100人ほどのデモ隊が抗議の声を上げ、それを千人ほどの警官隊が取り囲んで警戒していました」(現地で取材するジャーナリスト)
一方、肝心の五輪競技は、韓国内での盛り上がりはいま一つのようだ。
「開会式前日に高速鉄道のKTXで仁川から江陵に移動しましたが席はガラガラで、車両には乗客が自分だけ。江陵の町も静かで、お祭りムードとは程遠い状況でした。ソウル市民の間では『チケット料金は高いし、ホテル代も通常の10倍ほどに高騰。寒いし、現地に行くメリットがない』という声も多いと聞きます」(同)
結局、北朝鮮ばかりが注目される政治色の強い大会になりそう。それで、平和の果実は得られるのか……。
「五輪・パラリンピックが終わった3月末には米韓は合同軍事演習を始めるでしょうし、北朝鮮はそれに抗議してミサイル発射や核実験を再開するでしょう。その際、彼らは『当方は控えたのに、一方的に挑発した米韓側に非がある』と主張。それを中国とロシアが支持するでしょう」(前出の黒井氏)
結局、元通りということか。せめて、競技を楽しむとしよう。
(本誌・小泉耕平/田中将介)
※週刊朝日 2018年2月23日号