そういう意味では、現在公開中の映画「火花」からわずか2週間後に公開になる主演映画「ビジランテ」の三郎役は、まさに前作のイメージを覆すことに成功している。「火花」では天才芸人、「ビジランテ」では、地方都市に住むデリヘルの店長。メガホンをとった入江悠監督は、桐谷さんと同学年の38歳だ。

「台本を読んだ時は、監督のオリジナルだし、“カッコいい映画になるだろうな”とは思ったものの、僕の演じる三郎がどんなキャラクターなのかは、全然わからなかった。でも、撮影現場に入ったら、勝手に身体が動いてたんです。地方都市特有のどんよりした暗さとか、キーンとした寒さとか、そんな独特の空気が気持ちを透明にさせてくれたのかもしれない。殴られるシーンも多かったし、撮影スケジュールもタイトだったし、とにかく過酷な現場だったんですよ(苦笑)。でも、役に入り込んでいるときは痛快でした。文字通り、痛みもあれば快感もあって(笑)」

 新しい役柄と出会いながら、次々に変容していく桐谷さんに、「仕事はどんどん面白くなっていますか?」と訊くと、いかにも彼らしい答えが返ってきた。

「もちろん、ある程度経験を積んだ今ならではの面白さはあります。でも、若い、未熟な自分でなければ体験できない面白さもあったと思う。結局、どんないい時でも、悪く思えた時でも、若い時でも年取った時でも、面白いことはちゃんとある。そこに気づける自分でいたいです」

(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日 2017年12月15日号